上京して二日目のこの日、私と統理さんは別行動を取ることになった。

統理さんが美加流さんに呼び出されて仕事関係のミーティングを行うために出かける事になったからだ。

「くそっ、美加の奴ここぞとばかりに仕事詰め込みやがって」
「まぁまぁ、其れでも大半は美加流さんがこなしてくれていたじゃないですか」
「其れだけやったんなら最後までやれって云いたい」
「ふふっ、お仕事頑張って来てください」
「…何、梨々香は俺と一緒にいられなくて嬉しいのかな」

私の態度に苛ついたのか、統理さんが剣呑なオーラを噴き出し始めた。

「あ、違いますよ。だって…初めてじゃないですか」
「何が」
「待ち合わせしてデートするって事が」
「…」

今日は統理さんの仕事が終わってから私たちはとある場所で待ち合わせをしてデートする予定になっていた。

「こういう感じのデートっていうの、したことがなかったでしょう?しないまま結婚してしまって。だからちょっと愉しみなんです」
「…梨々香」

私の浮かれていた理由が解ったのか、統理さんはいつもの優しい雰囲気に戻り、そっと私を抱きしめてくれた。

「本当は一分一秒だって梨々香と離れたくない」
「其れは私もそうです。でも…お仕事は大事です」
「まぁね。働かなきゃダメだよね」
「そうです。頑張って働くから其の後にある愉しみがより一層尊いものになるんです」
「…はぁ…なんか梨々香、俺よりも大人だね」
「そうですか?私は統理さんの方が大人だと思いますけど」
「其れは年齢的な意味で?」
「其れは…其れもありますけど、だけどやっぱり…私にとって統理さんは頼りがいのある大人の男性ですよ」
「~~はぁ…梨々香ぁ」
「ぁ!」

抱きしめられたまま傍にあったベッドに押し倒された。

「やっぱり仕事、行きたくない。このまま梨々香とイチャつきたい」
「ダ、ダメですよ!もうそろそろ時間が──」

焦りながらもやんわりと云い訊かせるためにどう宥めたらいいのかなんて考えていると、統理さんの携帯がけたたましく鳴った。

「っ!」
「あ…もしかして美加流さんからかも」
「…あいつ…何処かで見ているんじゃないだろうな」
「まさか」

そんな会話をしている間も鳴り止まない携帯に統理さんは渋々出た。

「おまえなぁ、いい処で電話するんじゃないよ」

思った通りの人からの電話だったらしく、私は思わずクスリと笑ってしまった。




「仕方がないから行って来る」
「はい」
「梨々香は待ち合わせの時間までどうするの?ずっとホテルにいるの?」
「あ、あの私、統理さんが赦してくれるなら行きたい処があって」
「何処?」

東京に帰ったら行きたいと思っていた処があった。

其の場所を統理さんに告げると少しだけ思案して、其れでも「いいよ、行っておいで」と快く承諾してくれたのだった。




且つて通い慣れた道を行き、やって来た其処に私は少しだけ緊張しながら勢いよくドアを開けた。

「こんにちは!」

前にそうしていたように声を張って挨拶をすると、中にいた数人が私に視線を送った。

「え…梨々香ちゃん?」
「嘘、りーちゃん!」

其処には馴染みの人たちがいた。

私が行きたかった処とは、私が所属している芸能事務所の本拠地であるオフィスだった。

「早千代さん、岡ちゃん、久し振り!」
「わぁぁーどうしたのよ、突然」
「りーちゃん、本当にりーちゃん?!」

早千代さんと岡ちゃんは事務所の事務員で、特に私と仲良くしてくれた人たちだった。

「こっちに来る用事があって挨拶がてら寄ったの」
「そうなんだ。あ、ねぇ、梨々香ちゃん、結婚したって本当なの?」
「あ…うん」
「いつそんな事になったのよ、ビックリだよもう」

(そりゃそうだよね…そんな兆候全くなかったんだから)

周りが驚くぐらいに電光石火の如く結婚してしまった私をみんなはメディアで知ったという。

「ねぇ、お相手はどんな人?」
「新聞には一般男性ってことになっていたけど…もしかして同じ業界の──」

矢継ぎ早に質問されるこの場をどうしようかと戸惑っていると、奥の社長室のドアが勢いよく開け放たれた。

「おい、煩せぇぞ!なーに騒いでやがるっ」

久し振りに聞いた其の怒号が懐かし過ぎて思わず身震いした私だった。

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