「なっ、なんで私、言守さんとっ」
「あぁ…やはり古世美さんを寝袋で寝かせる事が忍びなかったので、熟睡したあなたを布団に招き入れました」
「~~~」
(しまったぁ──!)
なまじ寝つきがいい、一度寝たら朝まで爆睡──という子ども体質な睡眠のせいでえらい目に遭ってしまった。
「しかし…」
「…は?…何ですか」
徐に上体を起こし、一瞬物憂げな表情をした言守さんは私を見つめると微笑んだ。
「あなたは寝顔も可愛らしいのですね」
「?!」
「其れに何かを求めるように僕の体に手足を絡ませて…ギュッと抱きしめられた時は危うく理性が打ち砕かれそうになりました」
「~~~んなっ」
薄っすら頬を赤く染め幸せそうに語る其の一言一句が私に羞恥をもたらす。
(寝顔見られた!いつも使っている抱き枕を抱きしめる癖が出てしまった!)
もうどうしたらいいんだろうってくらい恥ずかしくなった。
グゥゥゥゥゥ~~ッ
「…へ?」
恥かしがっている私の耳によく知っている音が聞こえた。
「おや…僕のお腹から音が鳴りました」
「…お腹、減っているんですね」
「どうやらそうみたいです。これは昨日と同じ現象のようですね」
「…そうですね」
なんだか間抜けな会話だけれど、言守さんの生まれ育った環境と其の素性を知るとお腹が空く事が解らないというおかしな言動も納得出来た。
(今までお腹が空くなんて経験がない場所にいたからなんだ)
言守さんが二十歳になるまで出られないという社で、子どもの頃から徹底的な管理の元で生活して来た環境では、お腹が空く前にきちんと食事が出されていたのだろう。
(私にはそういう世界が全く想像が出来ないんだけれど)
生まれてからずっと外に出ない生活なんて考えられない。
いくら家の事とか跡取り云々とかって事があっても自分の意志で何も決められない世界は厭だと思った。
そんな事を考えるとなんだか目に前にいる言守さんの事が可哀想な人──という気持ちが湧いてしまった。
「古世美さん?」
「あっ、私、朝ご飯、作りますね」
「よろしいのですか?」
「よろしいも何も、お腹空いているんでしょう?私も朝ご飯はきちんと食べる派なので」
「…ありがとうございます」
「っ」
またもやにっこりと微笑まれてドキッとした。
其れに、言守さんの言葉は何故か温度を持って私の心に届く。
(まるで…言葉が生きているみたい)
何となくそんな事を思ってしまった私だった。
「これは……何でしょう」
「えっ、もしかしてパン食は初めてですか?!」
お米の買い置きが底をついていたので冷凍してあった食パンをトーストにして出してみたのだけれど、言守さんはトーストを見つめたままそんな事を云うからギョッとした。
「ぱんしょく…はい、初めてです」
「えっと…パン自体を食べた事がない、ということですか?」
「そうですね、社では常に白米でした」
「あ……そう、ですか」
其れを訊いて途端に不安な気持ちになった。
(ちょっと待って…なんか神様みたいな人に今まで食べた事の無い食パンなんて食べさせていいの?!)
ずっとお米だけの食事には何か意味があったのかとか、お米以外のものを食べると能力が無くなってしまうとか…
そういう状態になったりするんじゃないかと思ったのだ。
「あの、やっぱり今からお米を買いに行──」
「おぉ、初めての触感」
「あ゛ぁぁぁぁぁ──!!」
私が止める前に言守さんは何の躊躇いもなくトーストにかじりついていた。
「なんと…サクサクして…ん、仄かに甘くて…んん、中は白くてフワフワなんですね」
「あ…あっ…あのっ」
「? どうしました、古世美さん」
「あの、体、大丈夫ですか?!」
「体、ですか?………特に異変はないかと」
「そ、うですか…」
はぁと安堵のため息をついたけれど、またもやハッとしてしまった。
(って、食べて直ぐに症状が出る訳じゃないかも知れないじゃない!)
そんな堂々巡りな考えが私の思考を支配して、しばらく言守さんから目が離せなくなってしまった私だった。

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