ノワールに襲われると思った瞬間、心の中で誰かに助けを求めた。 

(助けて…!    っ)


其の瞬間、ノワールの手が止まった。

私の胸に触れるか触れないかの微妙な位置で。

「──違う」
「……え」

ノワールはちいさく呟く。

「そいつは──違う」
「…」

ノワールが何を云っているのか解らない。

(違う…?って、何が)

するとノワールは暫く私の顔を眺めてからスッと体を退けた。

「ノ、ノワール…」
「…ごめん、アメリア」
「え」

急にしおらしくなったノワールに私は戸惑いつつも浅い安堵感が胸に広がった。

「俺…アメリアが間違えそうだったから思わず出て来ちゃったけど…其の、酷い事するつもりはなくて」
「…」

(私が間違えそうって…どういう事?)

先刻からノワールが云っている事が私には解らない。

「俺、解ったから」
「…何が」
「俺にとってアメリアがどういう存在なのか」
「え」

其れは衝撃のひと言だった。

少し伏せていた漆黒の瞳を上げ、其のまま真っ直ぐ私に向けた。

「アメリア、どうか間違えないで」
「…」
「アメリアが愛していいのはそいつじゃなくて、俺──」

ノワールがとても大切な事を云うのだと思った瞬間


ドンドンッ!


「?!」

急に部屋のドアが激しく叩かれた。

『アメリア!』

「えっ」

部屋の外から聞こえて来た声はよく知ったものだった。

一瞬扉へ視線を移して、そして慌てて隣にいるだろうノワールに視線を移すと

「え」

其処には誰もいなかった。

「え?えっ…ノ、ノワール…?」

つい数秒前にはいた筈のノワールの姿が何処にもなかった。

「嘘…ノワール?ノワールっ」

私は何度もベッドの上を凝視し、そして部屋の中をくまなく見渡した。

だけどノワールの姿は何処にもなかった。

『アメリア!!』

「!」

未だに聞こえる扉を叩く音と私の名前を呼ぶ声。

私は少し震える足取りで部屋の扉まで歩み寄った。

そして少しだけ震える手で扉を開けると

「アメリア!」
「…フェル」

其処にはフェルが立っていた。

何故あのタイミングでフェルが来たのか解らなかった。

「大丈夫か?!何もなかったか」
「…どういう事?」
「鳴らしただろう、ベルを」
「…ベル?」

フェルの云っている事が要領を得なくて首を傾げる。

其の瞬間

「…んだよ、其れ」
「え」

一瞬にしてフェルの表情が今まで見た事のないものになった。

そして私に向かって伸ばされたフェルの大きな掌が私の首筋の一点を軽くなぞった。

「っ」
「其れって…」
「? 一体何が…」
「…」

フェルが触れた場所が燃える様に熱かった。

そして気が付いた。

(…あっ)

突然姿を消したノワールが舐めた場所が其処だった事に。

(や、やだ…もしかしてっ)

あの時押し付けられた唇の場所が一瞬痛んだ。

もしかしてあの時に何かの痕跡を残されたのだとしたら──

そう思った瞬間、私は慌ててフェルから距離を取り掌で首筋を覆った。

「な、なんでも…ない」
「…」
「其れよりも…ベルって何の事」
「…」
「…フェル?」

敢えて冷静になろうとしている私をただ黙ってジッと見つめるフェルの様子がおかしいなと思った。

Schwarz Mythos
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