私の不幸はあの人から始まったといっても過言じゃない。

忘れたくても忘れられない火種を私に植え付けたまま突然消えてしまったあの人が…

何年経っても私の中で燻り続けているのだ──









「ねぇ、佐崎さんっていつまでいるのかなぁ」
「さぁ、当分辞めないんじゃない?なんか独身貴族謳歌していますってオーラ出まくりだし」
「なんかさぁムカつくよね!ババァのくせして男を手玉に取るとか」
「ババァでも美人なんだから仕方がないよ」
「美人だったら尚更男なんてより取り見取りなんじゃないの?なんで結婚しないのよ」
「さぁ?──実は見かけだけよくて嫁にするにはよくない処があるのかもね」
「あーありそう!美人で仕事が出来て性格いいなんてパーフェクト女、この世の中にいるわけないもん!」
「だよね。絶対訳ありだよ」


(……)

そうか…

あの子たちは私をそんな風に思っていたのか。

(あーあ、出るタイミング失ったぁ)


女子トイレで話されるのは今も昔もよくない悪口のオンパレードだ。

個室トイレに籠っているタイミングが悪ければ知りたくなかった事まで知ってしまう。


(訳あり…そうか、解ってしまうのか)



ジャァァァァ───

「…はぁ」

やっとトイレから出て行った後輩社員たちの本音を思わず知ってしまいため息しか出ない。

「ババァかぁ…まぁね、28だもんね、ババァですよ」

手を洗いながら目の前の鏡でジッと己を見つめる。

自分では年相応の顔だと思っている。

まぁ、美人──というのは昔から変わらない他人からの私の評価だけれど…

(でもこの顔のせいで私は…!)

グッと唇を噛んで軋んだ胸をギュッと抑えた。

「~~っ、誰も好き好んで独身貴族やってんじゃないわよっ」

呟く様に低く唸る言葉を残し私は業務に戻ったのだった。




「あ、佐崎さん、丁度良かった。今バンクーバ支社から電話が来ているんだけど対応お願い出来るかな」
「解りました───Hello.Sasaki is speaking What can I help you?」


主に海外の企業が取引相手の商社に勤務する事六年。

私、佐崎 結子(ササキ ユイコ)は独身でババァだけれど英語がベラベラなので会社にとっては重宝がられている。

(やっぱり手に職をつけていると食い逸れなくて助かるわ)


幼い頃から色んな習い事をやって来た。

親に勧められるままやって来た其れらはあっという間にある程度の成果を上げ、私の特技のひとつひとつになっていった。

習字もそろばんも水泳もバレエもピアノもそして英語も。

教えられる事は直ぐに吸収して自分のものになった。

加えて器量も良かったので男子にはモテモテだった。

だけど小学生男子の好意は主に好きな子を苛めてしまうというお決まりのセオリーで私は意地悪ばかりをされて来た。

其れは女子も同じで、ひがみから私を苛めるか、モテる私のお零れを狙う計算高い女子に表面上の付き合いをされるかのどちらかだった。

自分ではごく普通の、みんなと変わらない子どもだと思っていたのに周りの評価はそうじゃなかった。

小学校、中学校までは辛い思いを沢山して来た。

だけど高校に進学してから周りの環境が少し変化した。

眉目秀麗、頭脳明晰、文武両道な女子に成長した私に男子はチヤホヤし、鬱陶しい位に纏わりつき、女子は腫物を扱うか如く遠巻きに眺めるだけだった。

子どもっぽい苛めはなくなったけれど、其の代わりに自由に身動きの取れない生活に厭気が差していたのだった。

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