「ありがとうございました」 

店内にいたお客さんが全ていなくなった時、龍はお店の扉にclosedのプレートを掛けた。

「閉めるには少し早くない?」
「今日はもういいの」
「…」

私の言葉に龍は事も無げに答えた。

そして手早く後片付けを済ませ、龍は私の隣の席に座った。

「で?どうしたの、歌也ちゃん」
「…うん…涼花の事なんだけど」
「涼花さんに会えたの?」
「其れが…」

私は数時間前に見た事を龍に話した。

私の話を一通り訊いた龍は「何、其れ」と短く呟きながら表情を強張らせた。

「其れって、涼花さんが歌也ちゃんに黙って引っ越したって事?」
「…初めは私もそう思ったの」
「…」
「私に黙って…故意にいなくなったんだって。…でも」
「…でも?」
「冷静になって考えたら其れはあり得ない事だなって」
「あり得ない?」
「うん…そんなの涼花らしくない」
「…まぁ、ね。涼花さん、歌也ちゃんの事大好きだしね」
「仮に涼花が私の事を嫌いになって、連絡のつかないようにしようと引っ越すとしても、涼花ならそういう気持ちを直接私に云うと思うんだよね」
「涼花さんの場合、歌也ちゃんを嫌いになるって、其れこそ考えられない事だけどね」
「だから仮に、よ。そんな涼花だから今回のこの事態はおかしいと思うの」
「…やっぱりあれかな」
「あれ?」
「ほら、前にトオルさんが云っていた」
「…」

龍に促されて頭に過ったのはトオルさんの涼花に関する噂だった。


『田仲物産が経営不振により、業界大手のKSYM株式会社に吸収合併されるって話があるんだけど』

『其れで其処に含まれる条件のひとつに田仲物産の社長令嬢とKSYM株式会社の社長子息の結婚が含まれているとか何とか』


(そういえば)

涼花の様子がおかしいなと思った事が何度かあった。

おかしいと思いつつも其の度に私はスルーして来てしまった。

でも私が『どうしたの?』と訊いても涼花は『なんでもないよ』とさらりと交わして、だから余計に気に留めなかった。

(でも涼花って)

本当になんでもない事は私に話してくれた。

涼花に騙された事も、嘘をつかれた事も、今までに一度もなかった。

「……そっか」
「どうしたの、歌也ちゃん」
「涼花って…本当に大変な時は私に何も云ってくれないんだ」
「え?」
「だからずっと変な気持ちだったんだ。だって私、今までに涼花から『なんでもないよ』って言葉、訊いた事が無かったんだもん」
「ん…?ごめん、意味がよく解らない」
「龍には解らないよ。これは私と涼花の間だけで解る事なの」
「あ~そういうの、何気に傷つく」
「ごめん!でも今、詳しく龍に私と涼花の友情の深さを話し訊かせている場合じゃないの」
「…歌也ちゃん?」

(そうよ…そうだよ)

あれはいつからだった?

涼花の様子がおかしいと最初に感じたのは。

(……確か、三杉さんと三人で食事をした時に涼花の携帯が鳴って)


『出なくてよかったの?』
『うん、いいのぉ、ウザい男からの電話だったからぁ』


(あの時、色々おかしいなと思ったのに)

きっとあの時からもう涼花の周りでは何かが起こっていたんだ。

「~~ったく…ポーカーフェイスにもほどがあるわよ!」

思わず私は其の場で立ち上がって叫んでしまった。

「か、歌也ちゃん?」
「私が悩んでいる時は盛大に助けてくれるくせに、自分が大変な時は私を頼らないとか!」
「…か、や」
「そりゃ役立たずかもしれないけれど、話を訊いて一緒に考えたりする事ぐらいは出来るわよ!」
「…」
「今まで涼花に助けてもらった分、今度は私が返す番なの!」
「…そっか、頑張って」

私の独りよがりな独白を龍は黙って訊き、そしてよく解らないまま頷き応援してくれた。

そんなある種の素っ気なさが私には丁度よくて、事を進める勇気を少し貰った気になったのだった。

王子様の作り方
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