そんな生活を少しでも変えたいと思い私は変装してちいさな食堂で皿洗いのバイトを始めた。

長い髪を引っ詰めて伊達眼鏡をかけて汚れても平気な地味な私服で仕事に励んだ。

其のお店の従業員は年配の方が多くて、みんな私を見かけで判断する事なくとてもよくしてもらった。

其の従業員の中にひとりに私と歳の近い大学生のアルバイトの男性がいた。

私と同じように黒縁の眼鏡をかけ、長い前髪を太いヘアバンドで上げていたふくよかな体型の人だった。

其の人の名前は鈴木 祐輔(スズキ ユウスケ)

最初は其の如何にもオタク風の容貌に近寄り難い印象を受けたけれど「名前、似ているね」という何気ない彼からの会話で急速に仲良くなった。

鈴木さんは貧乏学生で掛け持ちでバイトをしていると云った。

自分は貧乏だしこの体型だから女の子にはモテなくて、とあっけらかんと話す彼の事を私は少しずつ意識し始めるようになった。

見かけなんて関係ない。

貧しくても明るくて優しくて勤勉で真面目な彼を知れば知る程に私はすっかり彼に心を奪われてしまった。


そして


「好きです、つき合ってください」


初めての恋。


初めての告白。


私は精一杯の勇気を振り絞って鈴木さんに告白をした。

「えぇっ?!ぼ、ぼぼぼぼ僕、と?!」

私からの告白に彼は驚き戸惑っていたけれど

「ぼ、僕でよかったら…あの、本当の事を云うと僕も…ずっと前から君に…」

真っ赤になりながら私の気持ちを受け入れてくれた彼の言葉が嬉しくて、この時初めて私は生まれて来てよかったと実感したのだった。

飾らない私を見た目で判断する事なく好きになってくれた彼に全てを捧げたいと思った。

彼となら私は幸せになれると──17歳の私は信じて疑わなかった。


だけど付き合い始めて一ヶ月。


初めて彼に求められ、私も彼にならと臨んだ初めてのラブホテルでの初体験。

シャワーを浴び戻って来た私を見た彼がいきなり動揺して言葉少なに部屋から出て行ってしまった。

部屋にひとり残された私はただ呆然とするしかなかった。

其れから私がどんなに連絡しても彼から返信が来る事はなかった。

そしていつの間にか食堂のバイトも辞めてしまっていて彼は完全に私の前から消えてしまったのだった。


どうしてこんな事になったのか?


私には何も思い当たる事がなかった。


ただあの時

シャワーを浴びた私はいつも引っ詰めていた髪の毛を解き、伊達眼鏡を外しただけだ。

(まさか…素顔の私が彼好みじゃなかった…って事?!)

彼は髪の毛を束ねた眼鏡っ子が好みだったのか──なんて事を考えるまで私には解らない事ばかりで…

初めての恋を訳の解らない内に失くし、其れでも彼の事が忘れられなくて其れ以来ずっと彼の事を想い続けてしまっている愚かな私だった。



あれから十一年。



私は云い寄ってくる数々の男に心動かされる事なくただ勉強や仕事にまい進して来た。


(こうなったらひとりで生きて行くわよ!)


たったひとりの

いつまで経っても忘れられない初恋の人が私を不幸にしたとしても、私は其れに負ける事無く生きて行かなくてはいけなかったのだった。

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