私は何故此処に来たのだろう。 

此処に何を求めて

何に辿り着きたくて来たのだろうか──




カラン♪

「いらっしゃいませ」
「あれまぁ、本当にやっているんかいな」
「今日から始めました。どうぞよろしくお願いします」
「あんた、あれかい?十喜代さんの…」
「孫です。美野里と云います」
「みのりちゃんって…あの美野里ちゃんかい?ほら…随分ちっこい時よぉく十喜代さんの処に来とった」
「はい。其の美野里です」
「あんれまぁ!随分おっきくなってまって~幾つになった?」
「今年25になります」
「あれあれ、そんなになったのかい。結婚して子どものひとりやふたりこさえたかね」
「いえ…結婚はまだで…」
「そんな別嬪さんで25にもなって結婚しとらんとは!どうしたかね」
「えーっと…まだ、25なので…」
「いやいや、25といやぁこの辺じゃもう行き遅れの歳だね。えぇえぇ、わしらで世話してやるかい」
「ほうだな。あれ、あそこの…役場勤めの南さん処の息子がえぇ歳じゃなかったかいな」
「いやいや、路線バスの運転手の北原くんがなぁ」

「…」

(なんか…勝手に盛り上がり始めちゃったなぁ)

田舎特有の井戸端会議が始まったら長いのだと祖母から訊いていた。

(まぁ、いいか)




東京から50キロほど北上した人口9千人ほどの田舎町。

高い建物よりも田んぼや畑が目につくのどかな田園風景が広がるこの場所に住んでいた祖母が亡くなったのは三ヶ月前の事。

ひとり暮らしをしていた祖母は平屋の一軒家を一部改装してお茶屋を開いていた。

儲けなんて考えていない、ただ単に同世代の茶飲み友達が集えるようなこじんまりとした店だった。

自宅脇にある畑で野菜などを自家栽培して細々と暮らしていた祖母。

私はそんな祖母の事が大好きだった。

私がちいさい頃、母が専業主婦だった時は時間があればよく車に乗せられ祖母の家に遊びにやって来ていた。

だけど働き出した母は実家である祖母の家に滅多に帰る事が出来なくなって、そして自然と私も此処に来る事は少なくなった。

成人して色んな事に疲れた時、思い出したかのように癒しを求めひとりで祖母の家に行く様になった私は幼い頃の気持ちがムクムクと芽生えて来た。

いつかこんなのんびりとした田舎町で暮らせたらいいなと。

そんな私の気持ちを知っていた祖母は云ってくれた。

『いつでもおいで。此処を美野里にあげるから』

と。

そうして祖母は私に沢山の愛情と癒し、そしてこのお店兼自宅を残して逝ってしまったのだった。



「じゃあね、また来るからねぇ」
「はい、ありがとうございました」

祖母が亡くなってから休業していたお茶屋を私が再開した日、最初に来店してくれた祖母の馴染みのお客さんたちが帰って行ったのは来店から二時間後だった。

(凄い…次から次へと会話が途切れなかった)

田舎のお婆ちゃんたちの元気の良さをまざまざと見せつけられて少し気後れした。


(う~ん…やっぱりお店だけの売り上げでの生活はきつそうだな)

まだ初日だからなんともいえないけれど、甘く見積もってもお店だけでの稼ぎで生活して行くのは難しいなと考えていた其の時

カラン♪

「あ、いらっしゃいま──」

来客を報せるお店のドアの鈴が鳴って反応した私の目に映ったのは…

「…」

(え…な、何…)

虚ろな目をした表情のない顔は青白く、でも其の造形は目を見張る程の美しさ。

そして背の高い身を包むのは着物──姿の男性だった。

「……珈琲」
「え…」

其の男性はそうひと言だけ発し、そそくさと店の奥の窓際に腰を下ろした。

(コーヒー……あっ!お客さん)

一瞬別世界に紛れ込んでしまったのかと驚いた頭を必死に戻し、私は受けた注文を淹れるためにカウンターに入った。

Love Life Harvest
★ランキングサイトに参加しています。
其々1ポチずついただけると執筆の糧になります。

恋愛ランキング
にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村