「えー紹介します。今日からこの庶務課に配属された九重 恭輔(ココノエ キョウスケ)くんです」

課長の其の挨拶の瞬間、フロア内はザワついた。

「え…この子が…新卒の…?」
「中学生の間違いじゃなくてか」
「いやいや、おれんとこの甥っ子と同じ歳くらいに見えるよ?ちなみに小学生だけど」

「…」

口々に聞こえる驚きの声に私も内心賛同したかった。


『一目惚れしました!どうか僕と付き合ってください!』


ほんの数十分前のやり取りが思い出される。

逢っていきなり告白して来た其の子──いや、其の人はなんと今日から庶務課に配属された新卒の新入社員だった。


(嘘でしょう…)


其の見た目は何処からどう見ても中学生──頑張って見ても高校1~2年生の様な幼い風貌だった。

明らかに動揺している私を始め、課の社員数人を前に当の本人である九重くんはやけに清々しかった。


「初めまして、九重恭輔です。こう見えて22歳です。見た目よりも大人なのでどうぞよろしくお願いします」

ボーイソプラノを窺わせるよく通る明るい声で挨拶を終えた九重くんは社員たちからの質問に笑顔で応えていた。

「童顔は生まれつきなんです。これでも一応運動神経はよくて学生の頃は色んな部の助っ人をやっていました」

「えぇー酷いなぁ、ちゃんと大学卒業しましたよ。年齢詐称じゃないですよ」

「よく可愛いって云われますけど僕的にはやっぱりカッコいいって云ってもらいたいです」


平均年齢50歳前後のおじさんたちにとって九重くんは子ども──もしかしたら孫みたいな感じなのだろうか?


課全体に漂っていた戸惑いの空気があっという間に無くなってしまうほどに九重くんは直ぐに庶務課に馴染んでいた。

(凄い、順応力あるんだな)

見た目の爽やかさ同様、どうやら性格も爽やかでコミュニケーション能力も高いようだった。


「其れじゃあ佐東さん、後はよろしくね」
「あ、はい」

課長から九重くんを差し出されて少しだけ構えてしまった。

「あ」

私と目が合った九重くんはカァと赤くなった。

「あ、あのっ…先ほどは失礼しました」
「いえ…私の方こそすみませんでした」
「え、何が」
「其の…子ども扱いをしてしまって…」
「あぁ、気にしないでください。慣れているので今更何とも思いません」
「…そうですか」

ニコッと微笑まれた顔に一瞬ドキッとした。

(はぅっ!か、可愛いっ)

テレビに出ている様なカッコ可愛い子役の子に感じる様な愛おしさを彼にも感じてしまいハッとなる。

(ダメダメ!しっかりしろ~~私っ)

気を取り直し表情を引き締めた私は指導員としての務めを開始する。

「私は佐東です。九重く──九重さんの指導係として暫く業務の補佐に就きます。デスクはこの隣の空いている処を使ってください」
「あ、あの」
「はい」
「…まえは」
「? まえ?」
「名前は、なんですか」
「は?」
「佐東さんの下の名前は」
「…杏奈です」
「あんな…さん」
「…」

顔を赤らめながら私の名前を呟く九重くんがとても初々しくてどうにも調子が狂ってしまう私だった。

「と、兎に角九重く──九重さん、仕事の」
「くんでいいですよ」
「え」
「云い難いでしょう?九重くんでいいですよ、杏奈さん」
「…」
「? どうしました、杏奈さん」
「とりあえず君の事はくん付けで呼ばせてもらいますけど、私の事は苗字で呼んでください」
「えぇっ、ダメですか?!」
「ダメです」
「ちぇ~残念」
「…」

表面上冷静に取り繕っている私ですが…

(や…やだっ、なんだか新鮮!)

別に今更名前で呼ばれる事に対して新鮮な気持ちはないのだけれど、何故か九重くんにそう呼ばれる事に若干の焦りと戸惑いと…

(照れる~~っ)


見かけが中学生の同い歳。

其れは私の今までの男性遍歴の中にはいなかったタイプで、何でもない些細な事でいちいちドキドキしてしまうのだった。

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