時季は春。 

私が勤める会社にも新入社員が入社する季節だ。


「佐東さん」
「はい」

朝、出勤して来た課長に呼ばれたので掃除をしていた手を止め課長のデスクに向かった。

「なんでしょう」
「今日から新入社員が其々の課に配属されるんだけどね、うちの課にもひとり入る事になったから」
「そうですか」
「でね、其の子の面倒、佐東さんがみてくれるかな」
「え、私がですか?」
「うん。新卒入社だから年齢的には佐東さんと同い歳だから」
「…同い歳」

そうか、大学を卒業して入社したとなれば同い歳になるのか。

(同い歳でも私の方が四年先輩かぁ…)

高卒で入社した私も勤務四年目ともなれば其れなりに中堅になるという事だろうか。


「今時の若い子には同じくらい若い子をつけないとね。ボクらおじさん世代だと…ねぇ、話も合わないかもだし」
「…」

(ひょっとして…押し付けられているのかな)

ゆとり世代の新人は何かと面倒臭いとか思っているだろう仕事を課の中で一番下っ端の私に回って来た──という事なのだろう。

(…まぁいいか)

「解りました」
「あぁ、助かるよ。まぁうちの課はそんなに覚える事もないだろうし。最初だけ念入りにお願いします」
「はい」


玩具メーカー会社の庶務課は他の課と比べて割と年齢層の高い人事が配置されていた。

其のせいか課全体がのんびりとしていてそんな雰囲気が私には心地よく感じられていた。


課長との話を終え、再び掃除に戻った。

(あ、そういえば)

拭き残していた机を拭きながら気が付いた。

(新入社員って男?女?)

肝心の新人情報を訊かなかったのは痛恨のミスだ。

「課ちょ──」

性別を訊こうと思いデスクを見るけれど其処にはもう課長の姿はなかった。

(あぁ、朝のコーヒータイムに行ってしまったか)

課長は朝出勤してくると直ぐに自販機コーナーに向かい始業時間までコーヒーを飲む習慣があった。

(まぁいいか、出勤すれば解る事だし)

そう思い直し、私は残っていた掃除を終えたのだった。



掃除道具を仕舞いにフロアから出て給湯室の隣の部屋に向かった。

(ん?)

暫く廊下を歩いていると前方に辺りをキョロキョロしている子がいた。

(誰?…っていうか)

後ろ姿を見せる其の人は細くてちいさくてまるで中学生くらいの背格好だった。

(課の誰かの子どもさんかな)

忘れ物を届けに来た子ども──という認識で私は其の子に声を掛けた。


「どうしたの?迷子?」
「──え」

私の声に反応して振り返った其の子はやっぱり中学生くらいの幼い顔をした男の子だった。

(着ているのスーツっぽいけど…制服のブレザー…よね?)

少しだけ違和感があったけれど其れを打ち消して続けた。

「お父さんの忘れ物でも届けに来たのかな?」
「……」
「?」

其の子は私を見て口を開けたまま茫然としてしまっている。

(あれ…?も、もしかして…怖がられている?)

おおよそ160㎝前後の背丈の子にしてみれば、身長170㎝+靴の踵分3㎝の私は巨人にでも見えたのだろうか?

なんて思い、なるべく怖がらせない様に話し掛けた。

「あ、あのね、お姉ちゃん、こう見えても怖くないのよ?優しいのよ?だから怖がらないで欲しいなぁ」

貼り付けた様な笑顔で優しく語り掛けると其の子はハッとした顔をして、そして次の瞬間

「付き合ってください!」
「────へ」

顔を赤らめてそう宣言した男の子は私の目の前でいきなり土下座をした。

「一目惚れしました!どうか僕と付き合ってください!」
「…………」


余りにも唐突で、しかもうんと年下の子に出合い頭で告白された事は流石の私でもなかった。

ただただ其の剣幕に押しまくられ、今度は私の方が口を開け茫然としてしまったのだった。

000000a5
★ランキングサイトに参加しています。
其々1ポチずついただけると執筆の糧になります。

恋愛ランキング
にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村