私の誕生日会は主役の私が子どもという事もあって夜の早い時間にはお開きになっていた。

其のまま帰宅する人や来賓者たち同士が歓談をするために別の部屋に移動したりするのを見送って、私はようやく主催者としての任を解かれたのだった。


少しだけ疲労感を覚えた体で部屋に向かう途中、ふと考えていた事が頭に蘇った。

(そういえば今日は…ザシャルを見ていないわ)

私の誕生日会は強制参加ではないので、出席したくない者はしなくていいと触れ回っていた。

(イグナーツは女性たちに囲まれて愉しそうだったし)

其れにフェルも騎士団の仲間たちと飲み食いをしながら愉しそうにしていたのを見た。

──だけど

(ザシャルは何処に行ったのかしら)

私の事を嫌っているザシャルが私を祝うための会に出席するはずがないと思ってはいたけれど…

(いざ姿が見えないと気になるというか)


『まぁ、デュシス国の王子が?』
『えぇ、少し前から此方の城に滞在されているとか…』
『どうしてそんな…まさか人質として?』
『そんな訳はないと思いますけど…でも昔の事がありますからね。バルダーニ王が何を考えているのかはあたくし達には解りませんわ』
『ノーティアとデュシスの間は上手く行っていないのかしら』
『どちらにしても争いになる事だけは避けていただきたいですわ』


(……)

気になるのは誰が話していたか解らない会話だった。

(人質…昔の事…争い)

其のキーワードがザシャルと私たちにどう繋がるのか解らなくて気になって仕方がなかった。

歩んでいた足がピタリと止まり、そして少しの躊躇いの後、目指すべき部屋とは逆の方へと向きを変えたのだった。



ギィィィィ

(相変わらず不気味な音)

いつかこの扉から音が出ない様に直したい──と思いながら、私は静寂に満ちている書庫室に足を踏み入れた。

少しでも真相が知りたいと思い、其の結果私はザシャルに逢いたいと思った。

彼は私とは話したくないだろうけれど、其れでも訊かなくては何も始まらないと思ったから…


(部屋にはいなかった──だとしたら…)

カツンカツンと鈍い音を響かせて奥へと進んだ先にぼんやりと浮かぶ光があった。

(あ…)

以前書庫室でザシャルを見つけた時と同様、嵌め殺しの窓辺に腰掛け本を読んでいる姿を確認した。

「──ん?」

私の気配を感じたのか、本に落とされていた視線が私の姿を捉え一瞬眉根をひそめた。

「…ザシャル」
「…何」

ザシャルから放たれたたった二文字の言葉には沢山の意味が含まれている。

(もう慣れたわ)

此方が察して会話の主導権を握らなくてはいけないのだという事を。

「あなたを探していたの」
「…」
「誕生日会は終わって…其れで会場にザシャルの姿がなかったからどうしているのかと気になってしまって」
「…」
「勿論強制参加ではないからいなくても全然いいのだけれど」
「…」
「やっぱりザシャルは私を祝う会には出ないんだなって…其れほど私の事を嫌っているのだと思ったら其れはどうしてかなと」
「…」
「私の事をどうして其処まで嫌っているのか理由が知りたいと思って…」
「…」
「もしかしたら其れは先刻の会話の事があるのかなと思ったら確かめたくて──」
「長い」
「え」

ザシャルは持っていた本をパタンと閉じて私を真っ直ぐに見据えた。

「あんた、先刻から何云ってるの」
「…何って」
「誰が誰を嫌っていると」
「…ザシャルが私を」
「いつ云った、そんな事」
「…だって…」

直接的には云われていない。

だけどザシャルだけ私に対しての態度があからさまに嫌っているという雰囲気丸出しで…

「…別にあんたを嫌っている訳じゃない」
「…え」
「あぁ…其れだと少し語弊があるか。最初の頃は厭だと思っていた」
「…」
「どうして俺が子どもの守り役みたいな名目で来たくもない異国に寄越されたんだって反発していたから」
「…」
「ひとり娘に甘いだろうノーティア王と其れをいい事に我儘三昧で世間知らずな姫のためにこんな処に来させられたと随分腹立たしかったが──其れは間違いだった」
「え」
「実際割と近くでノーティア王やあんたを見ていたら俺の思い込みは間違っていたと解った」
「…」
「だから──最初の時ほど厭だとは思っていないし嫌ってもいない」
「…」

私は驚いていた。

言葉数の少ないザシャルがこんなに沢山喋るのだと。

其れに

(私は…嫌われていなかった)

ザシャルの気持ちを知って本当に驚いてしまったのだった。

Schwarz Mythos
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