そして私の誕生日当日。

其の日は朝から私の為に集まってくださった来賓者ひとりひとりに挨拶をして回っていた。

「誕生日おめでとう、アメリア。しかしあんなにちいさかったお姫さんがもう11とは…歳を取ると月日が早く感じるよ」
「ありがとうございます、叔父様。毎年遠いアナトリよりのお越し、感謝しております」
「おぉ、なんだ、今年は労いの言葉にやけに情が入っておるではないか」
「…そう、でしょうか?」
「ははっ、解っておる。あの者たちの影響であろう?」
「?」

(あの者たちって…誰の事かしら?)

「サドニス、余計な事を云うな」
「おお兄上、久しぶりだな」
「おまえは相変わらずだな──息災だったか」
「この通りだ。おい、兄上ご自慢の愛妃は何処だ。挨拶したい」
「本当、おまえは相変わらずだ」

お父様と叔父様は談笑しながらお母様の元に向かって行った。


「アメリア、今の方は…アナトリ国のザーン卿かい?」
「イグナーツ」

少し挨拶の輪から外れ一息ついているとイグナーツが傍に来た。

「確かバルダーニ王の異母弟だったと」
「えぇ、そうよ。お父様の義弟。私が生まれた年にアナトリ国の筆頭侍従長のお嬢さんと結婚してザーン卿になったの」
「へぇ…噂には聞いていたけど本当仲がいいんだな」
「仲がいいって…どういう事?」
「だって異母兄弟だろう?しかも前国王のご落胤。そういう関係の者同士って大抵仲が悪いものじゃないかい?」
「そういうものなの?でもお父様は叔父様を始め、他の義母妹弟の方々とも仲がいいわよ」
「へぇ…益々珍しい。ノーティア国は王位継承権争いには無縁なのか」
「ヴォーリアでは違うの?」
「まぁ他の国がどうかは知らないけどね。少なくてもうちにはそういう確執、多少なりとあるよ」
「…」
「尤も僕は三男坊だからね。そういった血生臭い争いとは無縁で助かっているよ」

相変わらず私みたいな小娘に対しても太陽の様な明るい笑顔で微笑みかけるイグナーツ。

(でも…そうか)

イグナーツの話を訊いてつくづく思った。

(やっぱり私は…世間の事を知らな過ぎる)

イグナーツ、フェルディナント、ザシャルが城に来てから確実に私の中でちいさな変化が起こっていた。


『まぁ、デュシス国の王子が?』

(…え)

細く聞こえた話し声の内容に思わず聞き耳を立ててしまった。

少し視線を這わせると、どうやら私とイグナーツのいる場所にある衝立の向こう側でヒソヒソ話をしているらしい。

『えぇ、少し前から此方のお城に滞在されているとか』
『どうしてそんな…まさか人質として?』
『そんな事はないと思いますけど…でも昔の事がありますからね。バルダーニ王が何を考えているのかはあたくし達には解りませんわ』
『ノーティアとデュシスの間は上手く行っていないのかしら』
『どちらにしても争いになる事だけは避けていただきたいですわ』

(……何、其れ)

やがて話し声は遠ざかって行き、一瞬其の場に静寂が訪れた。

「はぁ~全く。ご婦人はご婦人らしくもっと艶っぽい話をすればいいのに」
「…今の、どういう事?」

其の場の気まずさを消す様にイグナーツがわざと話を逸らそうとしているのが解った。

だからこそ余計に先刻の話が気になって仕方がなかった。

「何の事だい?アメリアが気にする様な事は何も──」
「とぼけないで!今の話は…ザシャル王子の事よね?」
「…」
「何…人質?昔の事?争いって…」
「アメリア、今日は君の誕生日だよ」
「だから何」

イグナーツはフッと微笑みかけ、私の肩にポンと手を置いた。

「此処にいる大勢の人たちは君の誕生日を祝いに来てくれているんだよ。其の人たちの気持ちを蔑ろにしてはいけない」
「…」
「今は気になる事があるかも知れないけれど、今日だけは祝ってくれる人の事を考えなさい」
「…」

イグナーツが年長者らしい言葉で私を窘めた。

普段とは違った真摯な態度に私はハッと気が付かされた。

「解ったかい?アメリア」
「……はい」

イグナーツの言葉を素直に受け止めたのはもしかしたらこれが初めてだったのかも知れないなと思ったのだった。

Schwarz Mythos
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