毎年この時期になると城内が少しだけ騒がしくなる。


「招待状の返信はこれで全てですか?」
「料理の発注数は?これが最終確認ですよ」
「貴賓室のシャンデリア、中央二段目の左から3番7番8番の蠟がなくなりかけています。直ぐに取り替えてください」
「すみません、注文していたカーテンが届いたのですが、支払いをお願い出来ますかー」

廊下を行き交う侍女や使用人が私を見掛けると笑顔で会釈しながら挨拶をするけれど、直ぐに忙しそうに走り去って行く。

(毎年恒例とはいえ…本当大変そう)

そんな事を思いながら私は本日の講義に向かったのだった。




「最近城内が騒がしいな」
「…そうですね」

今日で三度目となるザシャルによる歴史の講義。

ザシャルとは講義の時間に顔を合わせ、話をする程度の接触しかなかった。

彼は一日の大半を書庫室で過ごしているらしく、書庫内の書物を片っ端から読んでいるのだと司書が云っていたのを覚えていた。

(道理で見かけないわけよね)

尤も私も彼もお互い積極的に逢いたいと思う相手ではないので、こんな距離感が丁度いいと思った。

「おい、話を終わらせようとするな」
「…は?」
「俺は訊いている。何故騒がしいのだと」
「訊いた?訊かれていませんけど」
「訊いた」
「…」

(また…か)

正直、この頃になってようやくザシャルという人の事が解って来た気がした。

彼は言葉が少ないのだ。

必要最低限の事しか話さず、其処から彼が思う事を此方が察して会話を続けなければいけないのだ。

つまり先ほどの『最近城内が騒がしいな』という短い言葉の中には

『どうしてこんなに騒がしいのだ、何か理由があるのか?』

という言葉まで含まれているという事。

其れを受け手である私が察して、其れに続く言葉で話を続けなければいけないのだ。

(本当…ひねくれているというか面倒くさいというか)

彼が私に対して素っ気なく接している事はもう充分に解っている。

私以外の人間がいる時はいつもより一層言葉数が少なくなり、不快だと思っている感情を悟らせない様にしている。

でも私と一対一の時はここぞとばかりに厭味ったらしく素直な感情を吐露していた。

(…でも最初から嫌われていると解っていれば、其れは其れで気が楽だわ)


変に媚びなくていい。


変に気を使わなくてもいい。


そういった意味でもザシャルとのこの距離感はいい感じだと思った。

(まぁ、小娘相手にムキになるザシャルも中身は子どもよね)

そんな事を思ってクスリと笑うと、ザシャルの眉間に皺が寄った。

「なんで笑う」
「…いえ、特に理由はありません」
「なんで笑う」
「…」

(…本当大人げない)

少しため息をついて、私は其の質問ではない質問に答えた。

「もうすぐ私の誕生日なんです」
「は?」
「毎年私の誕生日には親しくしていただいている国内外のお客様を招いて誕生日パーティーを開いているんです」
「…」
「だから今は其の準備で忙しいのです」
「──いつだ」
「え」
「…」

(あぁ、誕生日はいつだ?という事ね)

「4月16日です」
「…」

私の誕生日を訊いたザシャルは一瞬何ともいえない顔をした。

「…どうしました?」
「別にどうもしない」
「…そうですか」

ザシャルの表情がおかしかったのはほんの一瞬の事で、もしかしておかしいと思ったのは見間違いだったのかなと思った。

現にもうザシャルはいつも通りの先生モードになり、講義を始めていたから。

(…気のせいか)

そんな些細な事はあっという間に私の頭から消えてなくなってしまったのだった。

Schwarz Mythos
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