「あぁ、完全に見失った」
「…」

少し前を歩くザシャルがため息混じりに云った言葉はスルリと耳を通り抜けて行った。

「この人混みじゃそう簡単に見つける事が出来ない。仕方がないから城に帰るよ」
「…」
「おい、訊いているか?」
「…あ」

不意に肩をトンッと小突かれ我に返った。

「なんだよ、疲れたのか」
「…いえ…そういうのでは」
「じゃあちゃんと歩けよ。俺はあんたの子守なんてまっぴらごめんなんだからな」
「!」

いつもなら聞き流している様ななんでもない言葉が、今のこのタイミングでは何故か胸に深く突き刺さった気がした。

「ほら、行くよ」
「…ません」
「あ?」
「子守をしてくれなんて…頼んでいません!」
「! おいっ」

気が付くと私は人混みの中を駆け出していた。

ザシャルの声が段々小さくなっていったのだけが解って、でも他の事は何も考えられずにいた。

心がこんなに乱される事なんて今までなかった。

誰に対しても平等に接し、愛する事が出来るという自信だけは常に誇っていたのに…

(今…私、ザシャルの事が嫌いだって…)

一瞬でもそう思い、其のまま感情を表に出してしまった事に更に動揺してしまった。





「はぁ…はぁはぁ…」

どのくらい走っただろうか。

人混みを避け、ただ闇雲に走り抜け息が上がって立ち止まった処は人もお店もない場所だった。

「…」

我に返りキョロキョロと辺りを見回す。

パッと見、つい先刻まであった喧騒はなく、景色も殺風景なものだった。

「…此処は…何処」

城下町だと思われる形跡など全くない場所に徐々に不安が押し寄せて来た。

「…あ」

振り返ると後ろには先が尖った葉っぱをつけた樹が幾つも密集して立っている森があった。

(…此処…もしかして)

ドキンと胸が高鳴った。

其処は話に訊いて知っていたスヴォルの森ではないかと思った。

(確か…未開の土地で何処まで続いているのか解らない手つかずの迷いの森)

いつから其処に存在するのか解らない未開の地。

今まで何度も開拓しようと手を入れたけれど其の度に失敗してしまうという曰く付きの森。

一度足を踏み入れたら二度と戻る事は出来ないと──

(…っ)

私は怖くなって其処から離れようと踵を返した。

(…どっちに行ったらいいのか解らないけれどとりあえずスヴォルの森から離れなくては)

そう思いながら2、3歩踏み出した瞬間

「こんな処で何してる」
「!」

いきなり真後ろから聞こえた声に心臓が飛び出るほどに驚いた私だった。

Schwarz Mythos
★ランキングサイトに参加しています。
其々1ポチずついただけると執筆の糧になります。

恋愛ランキング
にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村