イグナーツ発案の社会見学に出かける事になった私たち4人。

城を出て綺麗に整備されている広い庭園を抜けると大きな城門が見えた。

(此処から先は…未知の世界だわ)

この門を自分の脚でくぐった事は一度もない。

ごく稀にお父様やお母様の用事に付き合い城の外に出る時は大抵馬車に乗ってこの門をくぐっていた。

(というか…徒歩で城の外に出る時は中央横のちいさな扉から出るのね)

馬車などが通る大きな門の横には人が2~3人横並びで抜けれるほどの大きさのちいさな出入り口があった。

イグナーツを先頭に門前まで来ると「姫様、お気をつけて」と門番らしき人に声を掛けられた。

私は軽く会釈をして其の小さな門をくぐったのだった。



「アーリァ、足痛くないか?」
「…うん、大丈夫」

城門を抜けると長く緩やかな下り坂が続いていた。

道の中央部分だけが石畳で舗装されていて、いつも城で履いている様な踵の細い靴だったらさぞかし歩きにくいだろうなと思った。

「そりゃよかった。おれが贈った靴を履いていればどんなに長い距離を歩いても足が疲れないからな」
「そうなんだ」

私が今履いている靴は昨夜フェルが贈ってくれた物だった。

騎士団で主流になっている履き心地のいい靴だとかで、今日の為にわざわざ私の分を調達してくれたとの事だった。

(フェルって凄く気配りが出来るのね)

フェルが城に住むようになって今まで以上に接する機会が増えたけれど、其れを実感する度に私の知らなかったフェルの色んな面を目にする事が多くなった。

ただの悪戯好きのやんちゃ者ではないフェルは私の目にとても新鮮に映っていた。

其れに同じ歳のせいか何かと感性が似ている様な気がした。

フェルから教えられる事は素直に私の心に入り込んで私の糧となった。

今いる男性3人の中で一番長く話せていられるのはやっぱりこのフェルだった。

ちいさな時から一緒にいたフェルは気心が知れていて安心出来た。


「やぁ、ふたり愉しそうにお喋りしているね」

私とフェルが話をしていると少し前を歩いていたイグナーツが振り返り間に割って入って来た。

「イグナーツ王子」
「あぁ、そういう堅苦しい名称で僕を呼ばないでと云ったじゃないか」
「あ、そっか。…んでも本当にいいの?呼び捨てとかして」
「いいのいいの。今の僕はヴォーリア国の王子じゃなくてノーティア国の道徳教師という立場でいるんだからね。是非呼び捨てでお願いするよ」
「じゃあお言葉に甘えて、よろしくな、イグナーツ」
「此方こそ、よろしくね、ちいさな騎士見習いくん」
「いや…おれの事もちゃんと名前で呼んでくれよ」
「ははっ、冗談だよフェルディナント。君も可愛いね~弟の様に可愛いよ」
「わっ、抱きつくなっ!歩きにくいっ」

「…」

いつの間にか仲良くなっているイグナーツとフェルを遠目で見つめる。

(このふたり、気が合うのかしら)

そんなふたりを尻目にふと私たちの少し後ろを歩いているザシャルが気になった。

彼は坂道を下りながら眼下に広がる城下町をジッと見つめながら歩いていた。

(…風景を愉しんでいる?)

でも其の顔はなんの感情も読めない程に無表情だった。

ただ町を凝視して、何かを考えている仕草を時折するのだった。

やがて坂道は終わり、真っ直ぐに続く道の果てに高く看板を掲げたアーケードが見えて来た。

「ほら、アメリア。あそこから城下町に入るんだよ」
「…」

イグナーツの呼び掛けにドキンと胸が高鳴った。

(…なんだか凄く賑わっている)

アーケードまではまだ距離があるというのに、遠くの賑わいが既に私の体中を包み込んでいたのだった。

Schwarz Mythos
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