あの輝かしい日から時は瞬く間に過ぎ、父が想いの丈を込めて付けた【アメリア】という名に相応しくちいさな姫君は神に愛される様に健やかに成長して行った。



「はい、姫様大変結構でございます」
「…」
「では本日のお勉強は此処までに致しましょう」
「…先生、ありがとうございました」

初老の帝王学教授は丁寧にお辞儀をして勉強部屋を出て行くアメリを目を細めて見送った。

アメリアと入れ替わる様に部屋の扉がノックされ、いつもの如く娘の動向を常に心配する父・バルダーニが入って来た。

「おお、これはバルダーニ王」
「ジョバン教授、娘は如何なものかな」
「いつも通りよく学ばれて吸収されておりました」
「そうか」

愛おしい娘をただただ可愛がりたいという父親としての気持ちが溢れている一方、現国王として次期国王の継承権を与えた責任も重く圧し掛かり、一日の大半を国王となるべく勉強に費やしている娘の現状に申し訳なさを感じているバルダーニだった。


「姫様は同年代のお子より聡い子ではありますが…少々気がかりな事も」

教授は不意に表情を曇らせ気になる言葉を吐き出した。

「気がかりな事?其れはなんだ」
「…姫様はほんの少し…感情表現が乏しいのかと」
「感情表現?」
「其処まで気にするものではないかと思いますが、10歳の子どもらしい感情というか気性というか…つまり年齢よりも大人びいているという事でしょうか」
「其れはよくない事なのか」
「決してよくないとは云っておりません。聞き分け、物分かりが良く、従順で聡明な点は大変素晴らしいと思います。ただ…もう少し子どもらしい我儘があってもいいとわたしは思っただけです」
「…」

教授の言葉に妙に納得する処が幾つかあった。

(確かにあの子は子どもらしくないのかも知れない)


赤ん坊の時から手が掛からない子だった。

夜泣きもぐずりも数える程度しかなく、大変育て易い子だとメナムが云っていたのを思い出した。

得てしてそういった子どもは大人受けが良かった。

手が掛からない、賢く美しく間違った事をしない。

10歳にして国王となるべく素質は充分備わっていると周りの者が皆口を揃えた。


しかし母親であるメナムはそんな娘を気に掛けていた。

折に触れて娘との時間を多く持ち、女同士で何やら話している事を知っていた。

『わたくしが10歳の時なんてとんでもないお転婆で、よく兄様や爺やたちに叱られていました』

自分の幼少時代を話すメナムは30代後半だというのにまるで少女の様に可愛らしかった。

しかし娘のアメリアに対してはそう思えない現実があった。

家族で食事を摂りながら会話していても、アメリアがいるというのに何故か大人同士の雰囲気で会話している錯覚に陥る事がままあった。

(これは…どうしたものだろう)


愛娘に関しての悩みもまた尽きる事がなかったバルダーニだった。

Schwarz Mythos
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