バルダーニが不思議な夢を見た夜から二ヶ月が経った頃、バルダーニは信じられない朗報を訊く事になる。


「あなた、やっと…やっとあなたのお子を授かる事が出来ました!」
「! まことかっ」

喜ぶ妃につられ、バルダーニも全身で其の喜びを体現した。

この吉報は王室内は勿論、瞬く間にノーティア国内を駆け巡り、世継ぎを待ち望んでいた民衆もまた大いに喜び、王と王妃に祝いの言葉を捧げた。

そんな喜び一色の中、ふとバルダーニは心の中に一点の黒い染みが付着している事に気が付く。

(まさか…あの夢)

いつぞやの夜に見た奇妙な夢の事が思い出される。

あの時は単なる夢だと直ぐに見た事すら忘れていたけれど──

(…正夢ではあるまい)

あれはただの夢だ。

夢の中の事が現実になる事などない。

──けれど

10年もの長きの間、一度たりとも妊娠しなかった妃があの夢を見たとほぼ同時期に懐妊する事が出来たタイミングはただの偶然なのか?

(まさか本当に…)

一度そう思い出すと次から次へと不安が押し寄せて来る。

初めての妊娠で喜びながらも体の変化に戸惑い、一喜一憂する妃を労わり支えながらも、押し寄せる不安は無くなる処か益々増幅して行った。



『今の私は体も国をも持たぬただの流浪の民。私が与える子どもがもし女ならば其の姫を私が戴く』

『ノーティア国の姫を私のものに──そして私はいずれノーティア国の王の座に就く』



夢の中の人物はそう取引を持ち掛けた。

其れを自分は受け入れてしまった。

(もし子どもが女ならば)

何処の誰とも解らない不気味な存在に可愛い娘が奪われる事になる。


(…しかし男ならば)


『其の時はノーティア国の北部に残る広大な未開の針葉樹の森を頂く』


(スヴォルの森──)

行く手を阻むかのように幾万本もの針葉樹が隣接する未開の土地を寄越せと云った願いは容易い。


(そうだ、男ならば何の問題もない)


1/2の確率だ。

5分と5分。


半分の確率に勝利する事を願いバルダーニは其の時を迎えるのだった。

Schwarz Mythos
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