今日は朝から肌寒かった。


(はぁ…もう本格的な冬になりそう)

洗濯物を干し終えた私は冷たくなった指先を擦りながら部屋の中に入った。

リビングのソファには珍しくいっちゃん、蒼さん、薫さんがある程度の間隔を空けて座っていた。

(丁度いいや)

滅多にないこの機会に訊いてみようと思った。


「あの、皆さん、ちょっとすみません」
「ん?どうしたのルイカ」

真っ先に反応してくれたのは薫さんだった。

読んでいた雑誌を閉じてそっと私の元まで来ると、徐に両手を取って擦り始めた。

「なっ…! どうしたんですか、薫さん」
「ルイカの白い指が真っ赤になっている…冷たい」
「あ…」

時折ハァと息を吐いて優しく揉み解してくれる。

「おいっ薫、公共の場でイチャつくんじゃねぇよ!見苦しい」
「まぁまぁ、蒼さん。これぐらいは大目に見てあげましょうよ」
「はぁ?!大目に見ろだぁ?此処で赦したらもっと大胆な事始めるぞ、こいつら。いいのか?其の内リビングで公開セック──」

「あぁぁぁぁぁぁぁー!あの、あのですね!」

蒼さんが不穏な発言をすると感じた私は大きな声を出して制した。

「ルイカ…声、大きい」
「あっ、ごめんなさい…あの、手、もう温かいですから」
「…そう?」
「はい、ありがとうございました、薫さん」

笑顔で薫さんに応えると、やっと薫さんは元の場所に座り直した。

「で、どうした涙花。何か云いかけたよな?」
「あ、そうなの、いっちゃん。あの、今晩のおかずはおでんにしようと思うんだけど、中に入れて欲しい具があったら教えて欲しいなと思って」
「おでんかぁ~いいな、今日は寒いもんな」

いっちゃんが幸せそうな顔をしたので少し可愛いなと思ってしまった。

「玉子」
「…は?」
「オレ、玉子が入ってりゃ他はなんでもいい」
「え…蒼さん?」
「んだよ、玉子、テッパンだろ」
「…はぁ、まぁ入れますね」

(蒼さんって玉子、好きだったっけ?)

今まで特に玉子好きを感じた事がなかったのでちょっと驚いた。

「俺はね、コンニャク!あと大根があったら満足」
「あ、いっちゃん昔からおでんのコンニャク大好きだったよね」
「あぁ」
「他のコンニャク料理はそうでもないのに、おでんのコンニャクだけは別格だったね」
「まぁな。あ、ちゃんと筋目入れてくれると嬉しいな」
「うん、其の方が味が染みるもんね」

いっちゃんの答えは予想通りで安心した。

昔から知っている味覚が其のまま残っているというのが私にとっては嬉しい事だったのだ。

「じゃあ薫さんは?何か希望ありますか」
「飛竜頭」
「…は?ひ、ひりゅ…」
「飛竜頭、好きなんだ」
「…ひりゅうず」

(…って何?!)

今までに訊いた事がない名前に戸惑った。

(薫さんの好きなもの…折角教えて貰ったのに~~)

頭の中では色んな事が高速回転して必死に知識を持ちよって考えるけれど、やっぱり思い当らない名前。

「あれ?ダメ?邪道、かな」
「あ…あの…」

何故か素直に「ひりゅうずって何ですか」と訊けなくて戸惑っていると

「バカ薫!飛竜頭なんてマイナーな云い方するんじゃねぇよ!庶民には解り易くがんもどきって云ってればいいんだよ!」
「えっ、がんもどき?!」

思わぬ蒼さんの助け舟でひりゅうずなるものががんもどきの事だと知った。

「あれ…飛竜頭ってマイナーなの?」

ポカンとした顔を私に向けた薫さんの方が今度は戸惑っていた。

「あの…ごめんなさい、薫さん。私、ひりゅうずって初めて訊いて…何かなと一瞬戸惑って…」
「そうだったの?…僕の方こそごめんね、僕の家ではずっとそう云っていたからてっきりまかり通っている名前だと勘違いしてて」
「勘違いだなんて…!単に知らなかった私がいけないんです、だから謝らないでください」
「…だったらルイカも謝らないで?知らない事や解らない事はちゃんと訊いて欲しいな」
「そうですね…聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥って云いますもんね!」
「は?きくはいっときの……何?」
「えっと、諺なんですけど──」


なんだかおでんの話から大きく方向転換した私と薫さんの会話に、いっちゃんと蒼さんは苦笑や呆れ顔をしながらいつの間にかリビングからいなくなっていたのだった──







蒼い樹が薫る
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