気まずいままフェルから離れた私は当て所もなく城内をフラフラと歩いていた。

一応医務室へ行く方向へと歩いているけれど、其処に行くつもりはない。

(だって…虫になんて刺されていない)

そっと首筋に掌を当てる。

勿論触っても何もない。

ただ跡が残っているだけ。

(ノワールに吸われた…跡)

そう思った瞬間、カァと体中が火照った。

(何なの…あれは)

初めての行為に胸が高鳴って仕方がない。

そしてそんな恥ずかしい行為を思わせる跡をフェルに見られた事が無性に恥ずかしかった。

(はしたない…!嫁入り前なのに)

一国の女王になるための勉強は沢山して来た。

人々を導きより良い国づくりをするために必要な学びはありとあらゆるものを会得して来た。

其れと同時に

いずれ世継ぎを残すために必要な行為の学びも施された。

だから私はもう、何も知らなかった頃の少女ではない。

勿論実体験がある訳ではないので知識だけの頭でっかちな中途半端な大人──ではあるけれど。

(あぁ…厭だ)

 ノワールにされた行為だけでも鳥肌が立った。

決してノワールの事が嫌い──という訳ではないけれど、何故か其の気持ちと、体に触れられる行為の相違が私に凄まじい拒否反応をもたらした。

(こんな調子で私…子どもなんて作れるのかしら)

近い将来、子どもを成すために夫という肩書の男性に自身を捧げなくてはならない。

だけどきっと其の相手は私自身が選ぶ事は出来ないだろう。

もう既にお父様が相手を決めてしまわれているのかも知れない。

だとしたら私は其れに従うしかない。

(私に拒否権なんてないのだから)

女王になるという事はそういう事だと教えられて来たのだから。


いつの間にか中庭の小さなガゼボまで来ていた。

其処に備え付けられているベンチに腰を下ろしハァとため息を吐いた。

(私…ずっとこのままなのかな)

女王になるためだけの勉強や教養を身に着けて、お父様が決めた見ず知らずの男性と結婚して、求められるままに子どもを作って、其の子に跡を継がせるまで立派に育てる。

言葉にしてみれば、たかだか80字にも満たない言葉で表せてしまう様な人生。

(…おかしいな)

少し前まではそんな人生が当たり前で、そうなる事を目指して様々な事に励んで来たというのに。

(何か…何かが足りない気がする)

漠然とした気持ちとしてある其の虚無感が今の私の体の中に大きな穴をあけ、今まで蓄えて来たものを吹き出そうとしている感じがした。

(心が)

私の心が何かを求めて、満たされていない気持ちがどんどん体内の水分を吸い取り、カラカラに渇き果てようとしている気がした。


「其処にいるのは誰だ」
「っ!」

ぼんやりと考え事をしている頭にスッと入り込んだ固い声が、私を現実に引き戻した。

Schwarz Mythos
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