使えるものは何でも使う── そう決めた私の行動は早かった。


『もしもし、美野里?どうしたの』
「ごめんね、今話しても大丈夫?」
『大丈夫だよ──あ、今月分の原稿ありがとうね。締め切り前にくれるから助かるよ』
「まぁ、暇なんで…って、其れより芽衣子に訊きたい事があるんだけど」
『ん?何』

友人である芽衣子は出版社に勤める編集者だ。

彼女経由で東藤さんの事が知れないか訊いてみる事にしたのだ。

だけど

『んーわたしが知る限り其の本名から結びつく作家名は出てこないなぁ…』
「…そっか」

本好きで、色んなジャンルのものを読み漁っている芽衣子なら解るかななんて安易に思っていた私が浅はかだった。

『ちょっとこっちでも調べてみるよ。何か解ったら連絡する』
「あっ、余り大事にしないでね。暇な時にちょこちょこ~っとって感じで」
『解ってる。仕事に支障のない程度に浅く調べるから。心配しないで』
「ありがとう、芽衣子」

昔からの付き合いの芽衣子は私の性格をよく知っている。

だからわたしの気持ちの一歩先を読んで動いてくれるから安心出来るのだった。

とはいえ

(なんだか陰でコソコソ調べているのって後味悪いなぁ)

そう思うと東藤さんに対して後ろめたい気持ちが湧いたりもした。

(…あ、そうだ)

そして私はもうひとり、東藤さんと縁が深そうな人の事を思い出していた。



陽が暮れて、何処からともなく香って来る夕ご飯の匂いの中を歩き、目的地までやって来た。

「あれ」

以前来た時には煌々と明かりがついていた看板は今日は消えていた。

(もしかして此処も日曜日は休みなのかな)

そんな事を思いながらお店周りをウロウロしていたら、裏手に玄関らしきものがあって其処にインターホンが取り付けられていた。

思い切って其れを押すと

『はぁーい』

訊き慣れた声が聞こえて来てホッとした。

「あの私、美野里ですけど」

『え、美野里ちゃん?ちょっと待ってて』

其の応対から直ぐに玄関ドアが開き、蘭さんが顔を覗かせた。

「突然すみません、あの、今日ってお店休みなんですか?」
「そうなの、日曜日はお店開けていてもお客さん来なくてね。どうかしたの?」
「あ…えっと蘭さんに訊きたい事があったんですけど」
「なになに?あ、よかったら上がって」
「いいんですか?」
「いいのいいの。どうせあたしひとりなんだから」
「…じゃあ、お邪魔します」

突然のお宅訪問になってしまって困惑した私とは裏腹に、中に招いてくれた蘭さんはとても嬉しそうだった。

通された部屋は派手な形(ナリ)の蘭さんとは対照的にシンプルでシックな内装だった。

「素敵なお部屋ですね」
「ふふっ、ありがとう。ねぇ、もう晩ご飯食べちゃった?」

リビングから見えるキッチンで何かの準備をしている蘭さんが作業の傍らで話し掛ける。

「いえ、まだです」
「じゃあ一緒に食べない?あたしもこれからなの」
「え、いいんですか?」
「あたしが誘っているんだからいいに決まってるでしょう?いつもひとりで食べているから寂しいのよ。いいでしょう?」
「はい、お言葉に甘えていただきます」
「やったぁ、女の子と食事するなんていつ以来かしら」

蘭さんのウキウキした口調を聞いていて、私もそういえばと思い出す。

(私も女性と食事するの…いつ以来だろう)

確か此処に越して来る前日に芽衣子と新しい門出を祝って、なんて感じで居酒屋で飲み食いして以来だったかなとしみじみした。

其の後はずっとひとりで食事していて…

(でも此処数日は東藤さんと食事したっけ)

女性ではない人の事を思い出し、そして其れに連なって此処に来た目的を思い出して私は居住まいを正した。

00000a82
★ランキングサイトに参加しています。
其々1ポチずついただけると執筆の糧になります。

恋愛ランキング
にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村