『十喜代さんから色々訊いていたから』

蘭さんの口から出た其の言葉を訊いた瞬間、ボロッと涙が流れた。

「えっ…美野里ちゃん?!」
「う…うぅっ…」
「あぁぁぁ、ごめんなさい!おふざけが過ぎちゃったわ」
「ふぇ…え、え…っ」
「本当にごめんなさい!今のはぜーんぶ嘘だから!」
「……ぇ」

蘭さんの『ぜーんぶ嘘だから』に咽び泣きながらも反応した。

ジッと蘭さんを見つめると、蘭さんは気まずそうに

「…あたしが男っていうのは嘘、です」
「…」
「あたしはこの見かけ通りの正真正銘の女です」
「な…なぁ~~」

其の瞬間、私は腰が砕けてしまって其の場にへにゃへにゃと崩れ落ちてしまったのだった。



「大丈夫?美野里ちゃん」
「…はい…」

へたり込んだ私を蘭さんは奥の部屋まで運んでくれて、其処でようやく一息付けていた。

私が落ち着くまでの間、蘭さんは東藤さんと同じく居間の隣の和室に置かれている仏壇に向かって手を合わせていた。

そんな姿を見ていたら混乱していた頭や変に火照ってしまった体が徐々に鎮まって行った。

「蘭さん、お茶を淹れたのでどうぞ」
「あら、お構いなく」

そう云いながらも蘭さんは妙に慣れた様子で卓袱台前に座り、お茶を啜った。

「はぁ…懐かしいわ」
「え」
「いえ、久しぶりにこの部屋でお茶を飲んだなぁって…なんだか嬉しいわ」
「…」

蘭さんの言葉に既視感を感じた。

(そういえば東藤さんも)

『…久し振りに上がったのでつい懐かしくなってしまって』

なんて云っていたなと思い出した。

「…ひょっとして蘭さんもおばあちゃんと此処でお茶を飲んだりしていました?」
「えぇ、そうよ──もしかして、先生も同じような事を云っていた?」
「はい。今朝…お世話になったお礼に此処で東藤さんに朝食を食べてもらった時に」
「そう──あたしと先生は特に十喜代さんによくしてもらっていたの」
「え」

急に声のトーンを落とした蘭さんが仏間に飾られている祖母の写真を眺めながら話した。

「あたしも先生も、其々が重い荷物を放り出してこの町に逃げて来た人間だったの。ふたり共此処に来た時は其れはもう荒んでいて」
「…」
「そんなあたしたちをじっくりと癒してくれたのが十喜代さんだった」
「おばあちゃんが…」
「えぇ。根気強く、無償の愛情っていうの?そういう温かな気持ちを沢山もらって、今のあたしや先生が存在しているって訳」
「…」
「だからね、あたしや先生にとっては十喜代さんは特別な存在だった。其れこそ実の親なんかよりも近くて愛おしい人だった」

(おばあちゃんが…)

まさか東藤さんや蘭さんにとって祖母が其処までの存在だったとは知らなかったので私はただ驚くしかなかった。

でも

(…解る気がする)

実際、私も祖母には沢山救ってもらった。

辛かった時は両親よりも祖母にすがった。

祖母はあれこれ詮索する様な事はしなくて、ただ無条件ですがってくる私を受け入れてくれた。

だから絶対話せないと思った事も祖母になら話せた事が多々あったのだ。

「そんな十喜代さんからね、頼まれていたの」
「え」
「もし此処に孫が来た時は──もし其の時にワタシが傍にいられなかったらワタシの代わりに孫を助けてやってくれって」
「!」
「十喜代さんから色々訊かされていたのよ、美野里ちゃんの事を。勿論詳しい事は訊いていないわよ?ただ…幸せになりたくても素直になれない処があるから…助けてやって欲しいって」
「…おばあちゃん…が」
「特に恋愛面では…辛い思いをいっぱいした子だからって」
「~~~っ」

祖母は私が一番辛くて、死にたいくらい苦しんだ時の事を知っていた。

だからとても心配していたんだ。

「先刻、美野里ちゃんを騙す様な事をしてしまってごめんなさい。美野里ちゃんという子の事を知りたいと思ってつい…でもふざけ過ぎたわね」
「…ぃえ」

蘭さんが何故あんな事をしたのか何となく解って来て、からかわれた事に対して憤るという事はなかった。

ただ

「だからね、美野里ちゃん。先生もあたしと同じだという事なのよ」
「…ぇ」

其の蘭さんの言葉の意味を私はよく理解出来なかった。

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