「本当に…本当に申し訳ございません!!」

「も…もぅ…ひっく…もう本当に…ぐすっ」

泣きじゃくる私の間で深々と土下座する留実子さんの姿に泣いている場合じゃないと必死に涙を拭った。


武流から全てを訊き出すまで繰り広げられた壮絶な親子喧嘩に怖くなってつい泣き出してしまった私の泣き声でやっと喧嘩は治まった。

そして留実子さんは私に精一杯謝罪した。


「…あり得ない…好きな子に無理矢理そんな…あぁ~~!あたしのせいだ!あたしの育て方が悪かったからこんな恐ろしい事をしでかす人間にぃぃぃ~~」
「…母さんにはほぼ育ててもらってない」
「! じゃあ婆ちゃんが悪いのか?!婆ちゃんの育て方が悪かったから好きな子をレイプするような男が出来上がったって云うのか!」
「る、留実子さんっ!」

留実子さんのストレート過ぎる物云いにハラハラする。

武流は留実子さんに叩かれて赤くなった何ヵ所かを冷やしながら私を見た。

「…ちとせ、あの時は本当に…ごめんね。僕、正気じゃなかった…狂っていたんだ」
「もう…もう本当にいいから。だってあれのお蔭で私…武流への気持ちに気が付けたんだから」
「ちとせ…」
「だからね、本当にもう気にしていないの」

武流に向かって心からの笑顔を向けた。

今云ったことに偽りなないのだと解ってもらえるように精一杯の笑顔を。


「…はぁ~ちーちゃん…出来過ぎ」
「え」

私と武流のやり取りを見ていた留実子さんは深いため息をつきながら頭を抱えた。

「本来なら警察に突き出してもいい事をされたのに…ねぇ、本当にいいの?ちーちゃんはこんな非道でヘタレで馬鹿な男を好きでいてくれるの?」
「はい、私、武流の事が大好きなんです」

留実子さんに向けた笑顔も嘘偽りのない気持ちを込めた。

「…ちーちゃん」
「はい」
「ちーちゃんは…本当はどう思っている?」
「え」

急に真顔になった留実子さんから問われた。

「武流、フランスに行った方がいいと思う?」
「あ…」
「あたしとしては家族三人でフランスで暮らしたいって気持ちが大きいの。自分勝手な云い草だとは思っているけれど、其れでもやっぱり…ね」
「…」
「でも武流の気持ちも…解るの。そんな事をしてまで手に入れたちーちゃんと離す事に罪悪感がないと云ったら嘘になる」
「…」
「ねぇ、ちーちゃんはどうしたらいいと思う?」

留実子さんから意見を求められた。


だけど其れはズルいなと思う。


だって──


「ズルい…留実子さん」
「え」
「そんなの…そんなの私…行かないでって云いたいって事、解っているのに」
「…」
「武流と離れるなんて…厭だって解っているのに…私に訊くなんて……ズルいっ」
「ちーちゃん」

不意に体がいい匂いで包まれた。

其れは私を抱きしめた留実子さんから香った甘い香水の匂いだった。

「…っ」
「ごめん…ごめんね、ちーちゃん。酷な事を訊いて」
「…ふっ」
「あたしたち親子の問題にちーちゃんを巻き込んで…本当にごめん」
「ぅ…っ」

私は留実子さんに抱かれながら泣いてしまった。


(本当そうだよ…留実子さん)


そんな事は私が決めていい事じゃないんだよ。

一番は武流と…留実子さんの気持ちが大切で…

ふたりが納得いくまで話し合う事が大切なんだよ。








「ちとせ、今日はごめんね」
「…ううん、大丈夫だよ」

あの後泣き止んだ私は武流に家まで送ってもらった。


『もう少し武流と話し合ってみるね』

と云った留実子さんに私はぎこちない笑顔を向けた。

けれど結局は其れが一番の解決法だと思ったから私はもう何も云えなかった。


「武流」
「ん?」
「ちゃんと…自分の気持ちに正直になってね」
「え」

私はそっと武流の手を握った。

「留実子さんとちゃんと話をして…そして武流が本当に望む決断をしてね」
「!」
「私、武流が選んだ選択なら反対しない」
「ち…」
「例え其の選択が…私たちを切り離す選択だったとしても…私は絶対武流の事、追いかけるから」
「ちとせ…」
「絶対に離れないから!私は武流から離れないから!」
「……」

思い余って武流に抱きついた私を武流もギュッと抱きしめてくれた。

「武流…武流」
「…ちとせ」


──まさかこんな日が来るとは思わなかったけれど、でもこれはきっと私にとっても武流にとっても未来を考える上で必要な出来事だったのだろうと思えるから不思議だな、と思ったのだった


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