結局武流は午後からの授業が始まるギリギリになって教室に戻って来て、満足に喋る事無く其のまま放課後を迎えた。


「ちとせ、帰ろうか」
「うん」

いつもと同じように武流と下校する。

「僕、昨日ちょっと調べたんだけど、今度行きたいって云っていた温泉の近くに動植物園があってさ」
「…」


武流は先生に呼び出された事に関する話はしなかった。

私も武流が云わないのに此方から訊いてもいいのかどうか迷っている処があった。


(前に武流の気持ちを訊いているからなぁ…其れをあえて蒸し返すっていうのも)


気まずい──と思ってしまったのだった。



──他愛のない話をしながら昇降口から校門前に出た瞬間



「武流!」

「「!」」

いきなり聞こえた声に私も武流もビクッとした。

と同時に武流の名を呼んだ人物が目に入って更に驚いた。

「母さん?!」
「あっ」

其れは武流のお母さん──留実子さんだった。


「武流~やーっと捕まえたわよ」
「ちょ…な、なんで学校に来ているんだよ!」
「あんたが電話に出ないからでしょうが、この馬鹿息子!」
「い゛っ!」

留実子さんはいきなり武流の頭を拳骨で叩いた。

頭を抑えて唸っている武流から不意に私へ視線が移った留実子さんにドキッとした。

「ちーちゃん、久し振り」
「あの…はい、お久し振り、です」

武流くんに似た綺麗な笑顔を向けられ何故か胸が高鳴った。

「んん~ちーちゃん、前に逢った時から随分綺麗になったわね」
「! そ、そそそ、そんな事はっ」
「女は愛されると変わるっていうからね。こんな馬鹿息子でもちーちゃんを綺麗にさせてあげられているのかしらね」
「?!」


(ちょ…ちょっと待って…)


もしかして…



もしかして──


私が茫然として動きが止まった事に気が付いた留実子さんはにっこり笑って事もなげに云った。

「婆と静ちゃんから訊いていたのよ。やっと武流がちーちゃんをものにしたって」
「えっ!」

勿論婆というのは武流にとっての祖母、留実子さんにとっては母親であるおばあちゃんのことであり、静ちゃんというのは私の母の事で、留実子さんとは幼馴染みで仲よしという関係だった。


(そっか、おばあちゃんやお母さんに知られているって事は自然と留実子さんにも)


この女性三角形の中に置いて、私と武流の情報は筒抜け状態だったのだと今更ながら思い知ったのだった。


「ちーちゃん、本当にこんなヘタレでいいの?いいのは見かけだけよ?でも其の見かけだって歳を取ればどんどん劣化して行っていい処なーんにもなくなっちゃうんだよ?いいの、そんなのに捉まっちゃって」
「ちょっと、母さん!息子に対して何、其の云い草」

やっと復活した武流が留実子さんの暴言に応戦した。

「煩い!あたしは心配しているのよ。大切な親友の娘さんだからこそ幸せになってもらいたいって思うのが本音だよ」
「其の云い方だと僕がちとせを幸せに出来ないみたいじゃない」
「そう取れたならそうなのだろう──大体ね、あんたあたしの電話に何で出ないの?!だからあたしが此処までやって来る羽目になったんでしょうが!」


(あ…電話って)


いつか私の部屋に来た時に武流の携帯にかかって来た留実子さんからの着信を思い出した。


(そういえばあの時も出なかったよね)


「…」

(武流?)

留実子さんの剣幕に武流は少し意気消沈しているみたいだった。

そして少し言葉を交わさない時間が数十秒あって私は気が付いた。

私たち三人を遠巻きに見ている下校途中の生徒数人のヒソヒソ話に。


(マズい!注目されている)


私はとりあえず留実子さんと武流に場所を移動しようと提案したのだった。





そして三人で武流の家まで帰って来た。


(ち…沈黙が堪えた~~)

帰宅途中、バスの中での留実子さんと武流の間には会話はなく、私はふたりの間に挟まれ気まずい思いでいっぱいだった。

本当なら私は武流と留実子さんの話し合いに同席するつもりじゃなかったのに、何故か留実子さんが「ちーちゃんにも関係ある話だから」と云うので結局一緒になってついて来てしまったのだった。


家の中にはおばあちゃんの姿はなかった。

「今日は老人会の歌会があるって出かけているんだよ」
「あ…そうなんだ」

私が気になっていた事を武流が教えてくれた。


そして静かな居間に三人が座った途端、留実子さんはいきなり切り出した。

「武流、ちーちゃんにフランスに行く事ちゃんと云ったの?」
「…」

(え)

留実子さんの其の言葉は私の耳にちゃんと入って来ず、今、何を云ったのだろうとつい訊き返したくなったのだった。


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