進路について少し考えた日から数日後──


「は?温泉?」
「うん。あのね、お花見しながら入れる温泉があるんだって」
「なんだか年寄り臭いわね」
「えっ!なんでっ」


武流から春休みに何処かに行こうと誘われてから色々吟味した結果、隣の県の山奥にある温泉に一泊で行く予定を立てた。


「其れになんか厭らしい」
「!」
「温泉に一泊って…モロそういう事もれなくついていますよって感じ」
「そ、そんな事は~~お花見するだけだもん、温泉入りながらっ」
「だから其れが厭らしいって云うの。温泉に入るっていたって別々じゃないでしょう?どうせ部屋に温泉が付いているタイプの部屋を予約しようって云ってるんじゃないの?」
「! なんで知ってるの、冴ちゃん?!」
「……」

冴ちゃんは其れからとても渋い顔をしてボソッとひと言「今宮、変態」と呟いた。


(温泉に一泊…確かに恥ずかしいかなって思うけれど)


武流と付き合っている事を割と早めに母に話していた私はごく自然に今回のこの旅行の話も母にした。

反対されるかな?と思ったけれど、意外とすんなりOKが出て、かえっておススメの旅館などを紹介してもらったりしたのには少し驚いた。

私には高嶺の花だと思っていた武流が実は私の事をずっと好きだった──という件(クダリ)の話を訊いた母は「純愛!」と感極まってえらく感動して私たちの交際を応援してくれた。

今回の泊りがけの旅行で母は何かを感じ取ったみたいで「避妊だけは忘れないように」と釘を刺された時は顔から火が出る程に恥ずかしく思ったのだった。



「そういえば武流、遅いなぁ」
「はぁ…すっかり呼び捨てが定着している」
「え?」
「何でもない──気にしないで」
「…」

(冴ちゃん、私が武流って呼ぶ事に慣れないんだろうな)

冴ちゃんの云いたい事は何となく解っていたのであえてスルーした。


お昼休みが始まってからしばらく経って、武流は教室に来た担任の先生に呼ばれて教室を出ていた。


「先生、武流に何の話だろう」
「どうせ進路の話でしょう?」
「え」

冴ちゃんの言葉にドキッとした。

「この時期に呼ばれるって云ったら其れしかないじゃない」
「そ…っか」

(進路…)

まだ高校2年生──だけどもう高校2年生という気持ちの中で過ごして来た日々は、確実に一年後に向かえる道に近づいていた日々だった。


「多分今希望している大学よりももう少しランクを上げた処を狙えって云われているんだと思うよ」
「詳しいね、冴ちゃん」
「だって私も呼び出されてそう打診されたから」
「えっ!そうなの?!」

其れは初耳だった。

冴ちゃんが先生に呼ばれる処を見た事がなかったから知らなかったけれど、別にいつも私がいる処で呼ばれる訳ではないのだから知らなくても当然の事だった。


「じゃあもしかして武流もこうやって呼び出されるの初めてじゃないって事かな」
「其処までは知らないけれど…学校側としては進学率上げるために必死なんじゃないの?やっぱり成績優秀者には其れなりの処に行ってもらいたいって」
「…冴ちゃんはもう進路、決めているの?」

今まで話した事がなかった会話をこの機会に振ってみた。

「わたしは就職組よ」
「えっ、大学行かないの?!」
「行かない。やりたい事が出来たから」
「其れって…私が訊いてもいい事?」
「別に隠している訳じゃないから。ただ今まで訊かれた事がなかったから云わなかっただけ──其れに大した事じゃないのよ」
「?」
「わたし、高校卒業したらサムの処に行くの」
「其れって…結婚って事?!」

あまりにも突然の事で思わず大きな声が出てしまった。

お蔭で教室にいた数人に何事だと怪訝そうな顔で見られてしまった。


「結婚じゃないわよ。ただの弟子入りよ」
「へ?…弟子入り?」
「実はサム、今度独立する事になったの」
「え!」
「前に応募していたコンテストで最優秀賞受賞して、其処から話が進んでね。其の手伝いが出来たらいいなと思っているの」
「凄いねサムさん、プロのカメラマンになったんだ!」
「まぁ、まだ好きな仕事だけをして食べて行けるものじゃないけれどね。でも…そんなサムを支えたいと思ったの」
「…」

冴ちゃんが少しだけ頬を赤らめて話す。

そんな冴ちゃんを見た事がなかったから私はなんだか感動してウルッとしてしまった。


「ちょ…なんで涙ぐんでいるの?ちぃ」
「だ…だって…其れって凄く幸せな事だなって」
「…まぁ、両親は猛反対しているけどね」
「! そう、なんだ」


(そういえば冴ちゃんはいい処のお嬢様で、会社経営しているお父さんやお母さんにしたら簡単に納得出来ない進路なんだろうな)


「でもわたし、絶対負けない」
「…」
「今まで両親に逆らってまでも自分の意志で行動を起こそうと思った事はなかったけれど…これだけは絶対に譲れないの」
「…冴ちゃん」
「だから心配しないで、ちぃ。一年後のわたしはきっと笑ってサムの元に行くから」
「うん…うんうん!応援するよ、冴ちゃん」
「ありがとう、ちぃ」


初めて知った冴ちゃんの夢。

其れは今の私には眩し過ぎて、嬉しいのに少し胸が痛いなと感じた事だった。


(冴ちゃんはもうちゃんと決めているんだね)


私はどうしたいんだろう。


何がしたいんだろう。


今まであまり現実味のなかった将来に対する事を真剣に考えなくてはいけない時期なんだろうかと改めて感じたのだった。


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