「はぁ…はぁはぁ…」
「…んっ、大丈夫?ちとせ」
「う…うん…っ」

武流からお願いされた行為は私の口の中に武流の精液が放たれた事により終わった。

「今、水持って来るから」
「あ、いいよ、私が──」
「いいから」

私を制して武流はキッチンに向かって行った。


「…」

私はしばらく茫然としていた。

初めての行為に初めての経験に胸がドキドキしていた。

(私…武流の…呑んじゃった)

場所が違えば命の元になるものを飲み下した事に少し不思議な気持ちになっていた。

だけど決して厭な感じじゃなくて、また少し武流と近づけたような気がして心が湧き踊ったのだった。


プルルルル

「!」

茫然としていた私の耳にいきなり携帯の着信音が聞こえた。

(えっ…これって武流の携帯?)

机の上に置かれていた武流の携帯が鳴っているのを確認するために覗き込んだ私はドキッとした。

画面に映し出された発信者名は【母】となっていた。

(武流のお母さんからだ)

私は慌ててキッチンにいる武流を呼びに行った。



「武流、携帯鳴ってるよ」
「──え」

コップにミネラルウォーターを淹れていた武流が私の声に気が付き此方を振り向いた。

「お母さんからみたいだよ、早く出なきゃ」
「…」
「武流?」
「いいんだ。またかけて来ると思うし」
「え…いいって…なんで?」
「今はちとせと一緒に過ごす時間が大切なの。母さんとはいつでも話せるから」
「…そんな」
「いいから、はい、お水」
「…」

この時私はほんの少し違和感を感じた。

(なんで?どうして電話に出ないんだろう)


武流のお母さん──留実子さんは絵画のバイヤーとして東京の会社で働いていて、年に数回絵の買い付けに海外に飛んでいた。

そんな忙しい身だから武流を実家に預けているという事だったけれど── 

(最後に逢ったのって…確か中学の卒業式の時だっけ?)

私の母と仲が良かった留実子さんは私の事もとても可愛がってくれていた。

帰省の度に海外のお土産を持って来てくれる優しくて美人で聡明な人だった。


私の部屋に戻るともう携帯は鳴っていなかった。

「…」

武流と留実子さんが今どんな親子関係でいるのか解らないけれど、留実子さんからの電話にはいつも出ていた武流が今回のように保留にする事なんてなかったからおかしいなと思ったのかも知れなかった。



「ねぇちとせ、春休み何処か旅行に行かない?」
「え」

ベッドに隣同士で座った武流が私に寄り掛かりながら云った言葉にドキッとした。

(そういえばもうすぐ春休み…か)


春休みが終われば新学期。

いよいよ高校3年になるんだという思いがフッと心に湧いた。

そして何となく自然と私はこんな言葉を口に出していた。

「ねぇ、武流って進路、もう決めた?」
「え」

今度は武流の方が驚いた声を出した。

「秋の時にお互い進学って事は話していたけど…大学に行くとしても具体的にどんな選択をするのか…」
「何、いきなり。なんで旅行の話が進路の話にすり替わっちゃったの?」
「あ…そ、そうだよ…ね」
「…まぁ、一応僕だって色々考えているよ」
「そうなの?」
「とりあえずはちとせと同じ大学に行く──其れだけ」
「えっ」
「当たり前でしょう?何、ちとせは厭なの?同じ大学に行くの」
「う、ううん、厭じゃない…けど…私に合わせたら武流にとってはうんとレベルの低い大学になっちゃうよ?」
「じゃあちとせが僕のレベルに合わせてくれるの?」
「う゛っ!そ、其れは……」
「ふっ、冗談。ちとせはちとせが行きたいと思う大学を選ぶといいよ」
「…」
「僕は其処で学べるものの中から将来に繋がる選択をするだけだから」
「…武流」

(なんだか…変)

訳の解らない違和感がどんどん色濃く私の胸の中に広がって行く。

「さ、進路の話はこれで終わり。で、春休みの旅行の話だけどいいでしょう?ふたりで何処か行こうよ」
「あ…うん、行きたい」
「よかった。じゃあ何処にしようか?──あ、そういえばこの間買った雑誌に特集記事が載っていて」
「…」

正体不明の違和感を抱きながらも武流の話に気を持って行かれ、其のままモヤモヤした気持ちは何処かに行ってしまったのだった。





陽が暮れた頃、武流は家に帰って行った。

ひとり夕食の支度をしていた私の胸には先ほど感じたモヤモヤが再び浮上して来た。

(武流って…夢とかないのかな?)

ちいさい時から一緒にいたけれど、武流から将来何になりたいとか、夢があるとか、そういった話を一度も訊いた事がなかった事に気が付いた。

其れは冴ちゃんに関しても同じだった。

(私はふたりに云っていたっけ)

本当にちいさい時は母親と同じくバスガイドになりたいとか、花屋さんになりたいとか…

そんな事を云っていた気がした。

でもそんな話も大きくなるにつれて話す事はなくなっていた。


(でも先刻の武流の言葉ってちょっと自分がなさ過ぎだよね)


私と同じ大学に進学するという選択は私重視で決められたものだ。

其処に武流自身の意志というものが感じられない。


(違和感の正体ってきっとこれ…なんだ)


私ははぁとため息をつきながら夕飯の支度を続けたのだった。


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