忍に別れを告げるために呼び出した思い出の公園で思いがけない展開を迎えていた。

私は忍に申し訳ない気持ちで謝るしかないと思っていたのに、忍の方はそんな私を怒る処かこうなる事を予感していたのだと云った。

其の経緯を訊けば訊くほどに忍のあり得ない程の勘の鋭さ、女の子の気持ちに敏感な処など、妙に恋愛慣れしている処が目について、例の噂の真相がつい知りたくなった。


「忍が中途半端な時期に転校したのも…其の…前の学校で先輩を妊娠させたから…とか…凄い数の女の子と付き合っていたりとか…」
「…はぁ、まさかちとせまで本気にしていないよな、そんな阿呆らしい噂」
「して、ないけど…でも忍って妙に恋愛慣れしているっていうか…堂々としているっていうか…」
「其れは環境のせいだよ」
「えっ」
「其の前に、転校の件だけど俺の転校理由は単に親父の転勤に伴うものだよ。親父、警察官なんだよ」
「え…!」
「春からの赴任だけど、其の時期って引っ越しシーズンで色々な事が混むだろう?其れを避けるために前倒してとりあえず父親を除く家族だけは先に赴任先に引っ越して来たってだけだし」
「…」
「女問題だって…俺、姉二人と妹三人姉妹の中の男ひとりで…姉妹の友だちと連れだって遊んだりしていたら自然とハーレム状態になっていたってだけで、そんなやましい関係じゃないし」
「…」
「まぁ…たまには告白されて付き合った事もあったけど…そんなに長続きしなかったし」
「どうして…」
「どうしてって…どれもこれもノリだったんだよ。友だちの弟や兄って立場の男が物珍しい年頃でどれも真剣じゃなかったってだけで」
「…」
「そういうのに振り回されていたら自然と女心っていうか…そういう恋愛事に関して詳しい──とまでは云わないけど、色々先手を考える事に慣れてしまったんだ」
「…そうだったんだ」

(そっか…そういう環境だったら…納得かも)

見かけに寄らず恋愛に慣れている感は其処から醸し出したものなのだと思ったら本当にホッとした。


「はぁ~本当厭だ…いちいち本当の事を弁解するのに厭気が差して放っておいたらいつの間にかとんでもない大事になっているし」
「…ふふっ、そうだね」
「笑い事じゃないんだけど」
「でもね、忍と喋ったり接したりしたら噂のような人じゃないって直ぐに解るよ」
「…」
「だって忍は本当に優しくて…思いやりがあって…頼もしくて」
「…」

忍がジッと私を見つめている。

其の視線を感じて少し気まずいながらも、私はちゃんと忍と向き合った。

「私…忍の事を好きになってよかった」
「…」
「武流くんの事がなかったら私…私は…忍と──」
「もういい」
「!」

不意に腕を取られギュッと抱きしめられた。

「もういいよ…俺、ほんの一時でもちとせと…夢みたいな時間が過ごせただけで…凄くいい想い出になったから」
「~~~」
「だから…幸せになって。いつも俺に笑顔のちとせを見せてよ」
「~~忍ぅ」

其の大きな体の温かな温もりに包まれると酷く安心した。

忍みたいな人に愛された事が私にとってはとても感慨深い記憶になる。


「これからも可愛い後輩として俺をよろしく──ちぃ先輩」
「! う…うん…っ」


忍から『ちぃ先輩』と呼ばれて少しこそばゆい。

私の都合で甘い関係を解消したというのに、其れでもこれからの付き合いがある事を示唆する言葉を投げてくれた忍に対して、私は武流くんに感じるものとは違った愛情を抱いたのだった──


こうして私と忍は普通よりちょっと仲のいい先輩後輩という関係に戻った。









「お待たせしました」
「いいよぉ~其れより大丈夫?ちぃちゃん」
「はい──ご心配かけました」
「ううん、冴ちゃんの大切な友だちはオレにとっても大切な友だちだからね」
「…優しいなぁ…サムさん」
「ふふ、ありがとう。其処ら辺冴ちゃんに大袈裟にアピールしておいてね」
「はい」

公園脇に停められていた車に乗り込むと緩やかに発車した。

車を運転しているのは冴ちゃんの彼氏の東雲勇さん。

『サムって呼んでね』と云われたからそう呼んでいる。


忍と話をして来ると云った私に冴ちゃんは彼氏のサムさんを呼び出し、待ち合わせ場所まで連れて行くように車を出させた。

初めて見たサムさんは女の人かと思いドキッとした。

だけど其れは女装趣味なだけで中身は正真正銘男性なのだと紹介された。

男性だけど女装姿のサムさんは何処からどう見て女性の其れでとても綺麗な人だった。


「えっと、これからショッピングだったね」
「え」
「あれ、冴ちゃんから訊いていない?これから全身コーディネートするって頼まれていたんだけど」
「え、えっ…」
「だってぇ~初めて好きな人とのデートなんでしょう?」
「!!」

サムさんのからかいに一瞬にして真っ赤になった。


(デ…デデ…デート…かぁ)


武流くんとプラネタリウムに行く約束。

冴ちゃんに頼んで待っていると伝言してもらったけれど…


(武流くん…来てくれるかな…)


昨日黙って武流くんの家から抜け出してからなんの連絡も出来なかった。

あんな事があって、私自身武流くんに対して本当の自分の気持ちを知るまで武流くんに逢って話すという事が出来なかったから。

一夜明けて、自分自身の本当の気持ちが整理出来た時、其の気持ちを直接武流くんに告げたいと思った。

武流くんが私に気持ちをぶつけたように、私も武流くんに私の気持ちをぶつけたいと思ったのだった。



「ほら、着いたよ~冴ちゃんも待っている」
「あ」

サムさんの行きつけのお店だというブティックの前に冴ちゃんが立っているのが見えた。

「オレと冴ちゃんとでちぃちゃんを可愛くしてあげるからね♪」
「~~~」


親友と其の彼氏に着せ替え人形にされる覚悟をして私は車から降りたのだった。


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