【お話があります。少し早い時間ですが部活前に会えませんか?】


そんな文面のメールをもらった時から厭な予感はしていたんだ。



「あっ」
「…」

指定されたのはあの公園のベンチだった。

「忍…」
「…ちとせ」


この場所でちとせから告白されて、俺も其れを受けて告白して──キスしたのはまだほんの数日前の事だった。


「あの、ごめんね…忙しい時間に」
「…忙しくないよ。午後からの練習まではまだ随分時間、あるし」
「そっか…」


チラチラッと視線が合ったり外されたり、明らかに昨日の朝、別れた時とは態度が違っていた。


(…なんだかなぁ)

心の何処かでは期待していた。

俺の知らない処で女になってしまったとはいえ、でもやっぱり俺を選んでくれるのだと──


「あの…昨日はごめんなさい…練習観に行くって云ってたのに…」
「うん…」
「部活の後、デートするって…云っていたのに…」
「うん…」
「約束……すっぽかして…本当に……」
「…」

言葉を重ねる毎にちとせの声はちいさくなり、そして伏し目がちな瞳からはボロボロと涙が零れて来た。

「わ、私…私…っ、忍とはもう──」
「好きだった?」
「え…」

俺の言葉を受けてちとせは顔を上げた。

「ちとせ、此処で俺に告白してくれた時、本当に俺の事、好きだった?」
「……うん」
「…」
「好き、だった…本当に…好きだった」
「…」
「初めて逢った時から…ときめいていた…其れが好きって気持ちになったのは…本当だよ…」
「…」
「本当に好きだったからキ、キスだってしたし…其の…ア、アレだって…」
「…だよな、嘘の好きであそこまでさせる女じゃないよな、ちとせは」
「…忍?」
「本気で俺の事が好きだったのに──其れなのに勝てなかったんだな、俺はあの人に」
「!」

ちとせの顔色が一瞬で変わったのが解った。

「…俺、ぶっちゃけるとね、焦っていた気がするんだ」
「え…」
「初めて見たちとせの事が気になって…あの日、学食で山口から訊かされた『いまみや先輩』っていう王子の事が妙に気になって…色々調べたんだよ」
「!」
「ちとせと今宮先輩、そして泉水先輩の関係っていうの…外側からみた関係っていうのを知っている奴らから訊いて、そして俺なりに見えて来たものがあった」
「…」
「きっと今宮先輩という人はちとせの事が好きなんだろうなと」
「う、嘘…」
「勿論ただの俺の勘。訊いた奴らからは誰ひとりそんな事は気づいていないしあり得ないって感じで云っていたけど…俺、なんかそういうの解るんだ」
「……」
「今までの三人の関係が何かの拍子で動くかも知れない──と思ったら、そうなる前に俺はちとせをものにしておかないとダメだって焦ったんだ」
「…」
「きっと…今宮先輩が強くちとせに云い寄ったら…きっとちとせは今宮先輩の腕の中に飛び込んでしまうと思ったから」
「…忍」

俺の話を涙を零しながら真剣に訊いている様子が可愛くて堪らなくなる。

この場で押し倒して出来なかった続きをしたいという欲望に駆られてしまう。


──だけど、もう…


「俺があの時云った事…覚えているかな」
「え」
「ちとせを抱いて…ちとせが痛がって止めてと云った時、俺、どうしても無理矢理する事が出来なかった」
「…」
「ちとせの事が大切だから出来ないって」
「…うん」
「後、俺はちとせが俺の事を本当の意味で受け入れてくれるまで待つからって云った言葉の意味」
「…!」
「ちとせは俺の事をもう受け入れてくれていた気でいたかも知れないけど、俺の中ではまだだって思っていた」
「…」
「今宮先輩の事をクリアにしてからじゃないと…ちとせは本当の意味で俺の事を受け入れてくれているとは思えなかったから」
「し、忍っ…其処まで…解って…」
「だから──この展開は予想していたんだ」
「~~~」

ちとせがガバッと俺に抱き付いた。

「ごめ…ごめん、なさい…!忍…ごめんなさい、ごめんなさい!」
「…いいんだ、ちとせ」
「うっ…うぅっ…」
「早くにちとせの本当の気持ちが解ってよかった…じゃないと…俺、もう少しでも遅かったら…何が何でもちとせを今宮先輩になんて譲れなかったから」
「しの…忍…」
「本当…よかった…俺はちとせが幸せになってくれたら…其れだけで」
「わたし…私だって忍の幸せを…うっ…うぅっ」
「俺の事は心配しないでよ──まぁ、そこそこ打たれ強いんで」
「……其れって…噂の事と関係ある?」
「──え」

ちとせがいきなり泣き腫らした上目づかいで俺を見上げた。

思わずドキッとした。

(ヤバい…本当…可愛過ぎてどうにかなりそう)

再びやましい気持ちになったけれど、其れでもなんとか踏ん張る。


ちとせが引っかかった俺の言葉の意味を知りたそうにしたのを見て、俺は噂の真相を話そうと思ったのだった。


secretcrush
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