「…あんた、本気でちとせの事…好きなんだな」
「…」

仰向けになっていた僕に差し出された大きな掌。

だけど僕は其れを取らずに自力で起き上がった。

「そんなにちとせの事を好きなのにどうして今まで云わなかったんだ」
「…」
「あんた程の色男ならちとせだって──」
「煩い!何も知らない癖に僕とちとせの事を云うな!」
「!」

思わず声を荒げてしまった。

「君になんか…君になんかに云うものか。僕とちとせの事を」
「──云わせろよ」
「…何」
「俺は…敗者なんだからさ」
「? 何を云って」
「解るんだ…俺は」
「…」
「きっとちとせはもう答えを出している。俺とあんた──どちらを選ぶか」
「…」
「あんたが本気でちとせにちとせへの気持ちを云ったとしたら……多分」
「…」

(何を…云っているんだ)


敗者?


誰が?


小ノ澤が?


(そんなの、どう考えたって敗者は僕じゃないか)


馬鹿にされていると思った。



──だけど



「おいっ」

小ノ澤はもう其れ以上何も云わずに其の場を去って行った。

僕が掛けた声を無視するかのように、あっという間に其の姿は見えなくなってしまった。


(…なんだよ、云いたい事だけ云って)


小ノ澤が云った言葉を反芻する。

だけど訳が解らない。


『きっとちとせはもう答えを出している。俺とあんた──どちらを選ぶか』


(そんなのおまえに決まっているだろう。元々彼氏、なんだから)

思っていて虚しくなった。


『あんたが本気でちとせにちとせへの気持ちを云ったとしたら……多分』


(そんなの…云っても何も変わらない。ちとせの好きな男は僕とは真逆で…)

ちとせは僕には王子としての存在しか望んでいないのだ。

(まぁ、其の王子キャラも今回の事で木っ端微塵になったけれど)

ふっと自嘲地味な笑みが漏れた。



ピリリリリリリ


「…」

ポケットに入れていた携帯が鳴った。

(この着信音は)

はぁとため息が漏れ、手に取り出る。

「…もしもし」

『いつも出るのが遅いわよ』

「そんなに直ぐには出られないよ」

『反論するな──で、考えてくれた?』

「何を」

『前に話した事。考えてくれたんでしょう?』

「…そんなに直ぐには考えられないよ。まだそんなに日にち経っていないし」

『こっちの都合もあるのよ。色々手配しなきゃなんだから』

「……」

『武流?』

「…行こう、かな」

『え』

「話、受け入れようかなと…」

『本当?!解った、じゃあ早速手続きするから』

「──あっ」

いきなりブツッと切れた通話。


(…相変わらず自分勝手だな)

またはぁとため息が出た。


何日か前、確か竹内さんといる時にもかかって来た電話。

其の時は一度きっぱりと断った話だった。

だって其の時はまだ…

ほんの一縷の望みがあったから。


──だけど


「…もう…いいか」

ちとせとの事があってから何もかもがどうでもよくなってしまった。

其れによくよく考えればこの機会でよかったかも知れない。


(ちとせと離れるのに…もう躊躇いはない…かも)


きっとちとせももう僕の顔など見たくないだろう。

逢う度に怯えられ、顔を強張らせるのを見るのは辛い。


(離れよう──ちとせから)


見上げた夜空に星が沢山瞬いていて、何故か今日は其れがとても目に沁みたのだった。


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