なんだか変だな──と思った。

「ご馳走様でした」
「はい、ご馳走様でした」

いつも自分が過ごしている家の中に好きな人がいるという違和感。

「そういえば仏様のご飯はどうするの?」
「あ、そうだ下げちゃわないと」
「俺、下げるよ」
「あ…ありがとう」

忍は居間の隅に置いてある父の仏壇に供えてあったご飯を取り、ごく自然に食べてしまった。

「あ」
「えっ、何」
「ご飯、食べちゃった」
「えっ!ダメだったの?俺、じいちゃん家に行った時、いつも仏さまのご飯食べてて…」
「ううん、ダメって訳じゃないよ?ただ…美味しくないでしょう?冷めたご飯って」
「なんで?おにぎりとかだって冷めてるじゃん。関係ないけど」
「…そっか」

(忍ってなんか不思議)

其れは自宅に着いてから思っていた。

ドキドキしながら忍を家に上げて居間に通した。

忍の視線が隅に置いてあった仏壇を捉えるなりそっと近寄り手を合わせていた。

其の流れるような行動を茫然と見ていると『ご先祖様の?』と訊かれたので、父のものだと答えた。

するとサッと顔色が変わり『知らなかった』と少し寂しげな顔をした。

そういえば付き合いが浅過ぎて家族の事を話していなかったなと思い出し、父が亡くなった事や母の仕事の事などを軽く話した。

私の話を真剣に訊いてくれる忍を見ていたら、山口さんから訊かされたような軽薄な感じは全然しなくてやっぱり噂はガセなんだと確信した。

(なんだか…忍といるの心地いい)

いつの間にかそんな安心感を抱いていた私だった。


──だけど其の安堵した気持ちも時間が経つとそわそわしたものへと変わって行った


(はぁ…どうしようかな…)

キッチンで時計を見るともう23時を過ぎていた。

先にお風呂に入ってもらった忍は今、私の部屋に居る。

先刻お風呂から上がった私は水を飲むためにキッチンに来て、もうしばらく経っていた。

(いよいよ…なんだよね)

ドキドキと高鳴る胸が痛い程だった。

湯船に浸かっている時、ぼんやりと思ったのだけれど、よくよく考えてみれば私は随分大胆な事をしているんじゃないのかな──という恥ずかしさが込み上げて来た。

母がいない事をいい事に男を連れ込んで食事をしたり入浴させたり…

やっている事がまるっきり誘っています──という状況だ。

(い、今更何を~~~!)

此処まで来て、急に(ひょっとして私は悪い事をしているんじゃないか)という背徳感に駆られる。

「…」

──確かに駆られているのだけれど


(でも…私は忍と……したい、って思って…)


「ちとせ?」
「!!」

急に背後から声を掛けられ盛大に驚いた。

「あ、ごめん、驚かせて」
「ぅうん…大丈夫」
「ちとせ遅いなと思って…ちょっと心配になって…」
「ごめんね、お水飲んでいて…あ、忍も要る?」
「……」
「忍?」

忍がジッと私を見たまま動かなくなった。

どうしたのだろう、と思った次の瞬間、忍は私の手から水の入ったコップを取り上げテーブルに置き、いきなりガシッと私をお姫様抱っこした。

「?!」
「…」
「し、忍?どうしたの」
「もう…限界」
「え」
「湯上りのちとせ見たら…堪らなくなった」
「!」

そう云うと忍は私を抱えたまま部屋のベッドまで行き、其処に優しく私を下ろした。

ギシッ

忍が私に跨った時、ちいさくベッドが軋んだ。

何故か其の音がとても卑猥な音に聞こえてしまって、一気に気持ちは甘ったるいものになった。

「…」
「…」

私も忍も無言だった。

(こ、こういう時って…私の方から何かリアクションするものなの?)

初めての事でどうしたらいいのか解らなかった。

本当に…

どうしたらいいのか解らず…

でも自然と私の手は忍の腕にそっと添えられた。

「…ちとせ…いい?」
「…ぅん」

恥ずかしさから躊躇いがちに呟いてしまった。

だけどそんな私の様子を気に留める事無く忍の唇がフッと私の頬に掠った。

「ぁっ…」
「…ちとせ」

チュッと耳朶を甘噛みされた。

其の瞬間体中に電流が走ったようなゾクゾクする快感が駆け巡りフルッと体が震えた。

「可愛いちとせ…ちとせの全部、俺に頂戴?」
「…うん、忍に…もらって欲しい」
「…」

細められた忍の瞳がとても優しげで、私は其の艶やかな表情にとろんと惚けてしまった。


──何も考えなくていいんだ


体が自然とそういう風に動くようになっていたんだって、其の時になって私は初めて知ったのだった。

secretcrush
★ランキングサイトに参加しています。
其々1ポチずついただけると執筆の糧になります。

恋愛ランキング
にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村