「え、学食に行く?」
「うん…だから今日は冴ちゃんと一緒にお弁当食べられないの」
「…」

お昼休み開始のチャイムが鳴り終わる前に私は冴ちゃんの席まで行き、昼の予定を告げた。

「ちぃ、お弁当忘れたの?」
「えっ!…ううん…お弁当はあるの」

冴ちゃんの席に近い武流くんが話の輪に入って来て少しだけドキッとした。

「じゃあなんで学食なの?」
「あの…其れは…」

武流くんには小ノ澤くんとの事を詳しく話していなかった。

前に柔道の事を教えてもらう際、其の理由は有耶無耶になって結局私は武流くんには何も云わなかった。

(えっと…何処から話せばいいのかなぁ…でも時間が)

ついチラッと時計を見てしまう。

「ちぃ、行って来なよ」
「え」
「今宮にはわたしから云っておくから」
「冴ちゃん…」
「ひとりで、大丈夫なんだね?」
「う、うん!ありがとう、冴ちゃん」

私は冴ちゃんの言葉を受けて慌てて教室を出て行ったのだった。



「…小ノ澤かぁ」
「ちぃは今宮が小ノ澤の事を知らないと思っているんだね」
「訊いていないから」
「ふぅん…じゃあこの機会にちぃの行動の裏には全て小ノ澤ありって思うんだよ」
「なんだよ、この急展開」
「其れはあんた自身もそうでしょう」
「…」
「小ノ澤が現れた途端、今までしなかった行動をしたり、積極的になったり」
「…そういう危機感を抱かせる男の出現に戸惑ってちょっとテンパっているんだよ」
「あのさ、今宮とわたしだけじゃないよ」
「何が」
「ちぃの…ちとせの魅力を見出して好きになるって輩はわたしたちだけじゃない。これから先、もっと増えていく気がする」
「…」
「実際わたしたちが傍にいなかったら其の魅力はもっと早くに開花して認められる事になったんだろうけど」
「…見つけなくていいのに」
「…」
「ちぃの魅力は僕たちが…僕が知っているだけでいいのに」
「…そうだね。でもそうも云ってられないのが現実世界ってやつだからね」
「…」
「いつまでも子ども同士のちいさな世界で仲良しこよしではいられないって事なんだよ」
「泉水、なんだか急に饒舌だな。何かあった?」
「別に何も──ただ…わたしたちももう少し視野を広げないといけないんじゃないかなと思っただけ」
「…あっそ」
「あんたもやるだけやって砕け散ったらちゃんとちぃを祝福して、ちぃに代わる相手を見つける事ね」
「…」

急にどうしたんだと思った。

泉水のこの物わかりの良さは何だろうと思った。

だけど結局は同性と異性の違い。

女同士の恋の成就は難しいかも知れないけれど、異性の立場である僕ならば──と思わずにはいられない。

例え成就の確率が限りなくゼロに近くても、早々に諦める事なんて出来ないのだ。





「あ」

ざわつく学食の入り口に一際目立つ小ノ澤くんを見つけて駆け寄った。

「小ノ澤くん」
「こんにちは、先輩」
「遅くなってごめんね…あの」
「席、取ってあるんで行きましょう」
「うん」

あまり広くない学食はいつも満員で、人で溢れているから滅多に来た事はなかった。

物珍し気にキョロキョロ見ていると向かって来た人にぶつかってしまった。

「あっ、ご、ごめんなさい」
「ちょ…ごめんなさいじゃないだろ、何処見て──」

少し怖そうな男子が私の腕を取った瞬間

「狭いんでぶつかるのは仕方がないですよね」

私の腕を掴んでいる男子の手を小ノ澤くんが放し、庇うように私の前に立ちはだかった。

小ノ澤くんの言葉を受け、剣呑な雰囲気だった男子は少しバツの悪そうな顔をしてそそくさと行ってしまった。

「大丈夫ですか」
「うん…ごめんね、迷惑かけて」
「迷惑?かけられていないですけど」
「…」
「此処です。先輩は向かい側に」
「…ありがとう」

いつもそうだった。

小ノ澤くんと出逢ってから、私がネガティブな発言をする度に小ノ澤くんは何でもない事の様に返してくれる。

其れは計算によってとか表面上だけのものとか、そういった取り繕った様な云い方じゃないから自然と私の心に深く響いた。


(どうしよう…毎日毎日…どんどん好きになって行ってる)


まだ出逢ってからわずかだというのに、私の小ノ澤くんに対する気持ちはもういっぱいいっぱいな処まで来ている様に思えたのだった。

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