図書館を出る頃にはすっかり暗くなっていた。

「送って行くよ」
「えっ」

一緒に館内から出た竹内さんにそう云った。

「もう暗いし、君は女の子だしね」
「…」
「云っておくけれど其処にはなんの感情も存在していないからね」
「…すぎ」
「は?」
「武流くん…優し過ぎ」
「…」

顔を赤らめながら少し俯き加減になる竹内さんに少しだけ厭な気持ちになった。

(ダメだ…多分勘違いさせている)

もう一度この行動に他意はないと釘を刺しておかなければと思った。

「あのね、竹内──」
「でもね、大丈夫だから」
「え」
「此処から家までそんなに遠くないし…其れに」
「…」
「勘違い、したくないから」
「…」
「じゃあね、バイバイ」

最後にはいつも見かける笑顔を振りまいて彼女は去って行った。

「…」

闇夜に彼女の姿が消えて行くまでつい見届けてしまった。

(なんだ、意外と馬鹿じゃないのかも)

ほんの少しだけ彼女の事を見直すきっかけになった出来事だった。





 


「あ」
「あ」

もうじき家に着く──という処で偶然ちとせと逢った。

「武流くん、今帰り?」
「うん…ちぃは」
「今ね、武流くんの家に寄っていたの」
「え、何か用があった?」
「ううん、なんでもないよ。ちょっとおばあちゃんの顔を見に寄っただけなの」
「…そっか」

なんだか少しちとせの雰囲気が変わった?──と思った。

いつもの様に天使みたいな清らかな笑顔を僕に向けているのに、何故だか少し其の存在が遠くに感じてしまう。

「じゃあね、また明日」
「家まで送るよ」
「いやいや、もうすぐ其処だよ?大丈夫だから」
「送りたいんだ!」
「…」
「…あ」

つい声を張って云ってしまいハッとした。

(何ムキになって…僕は)

「ふふっ、じゃあ送ってもらおうかな」
「!」
「武流くんって本当にいつまでも私の王子様だね」
「…」

蕩ける様な笑顔で微笑まれた。

其れを見た瞬間、僕の中では決して表に出す事のなかったどす黒い感情が渦を巻き出した。

「武流くん?」
「…ねぇ、ちぃ。今度の休み、何処かに行かない?」
「何処かって…あぁ、冴ちゃんから何かお誘いがあった?」
「違うよ。僕とちぃのふたりだけで」
「え…ふたりだけで?」

ちとせはぽかんとした表情をした。

其れもそうだろうなと思う。

だって今までは何処か遊びに行くのは泉水も含め常に三人で行っていたから。

でも其れも高校に進学してからはめっきり少なくなり、おまけに僕からふたりで、というシチュエーションで誘った事などなかったのだから。

(ちとせとふたりきりで何処かへ──なんて想像しただけで絶対平常心でなんかいられない)

いつもそう思ってしまっているから僕からは積極的に誘う事は出来なかった。

「うん…ダメ、かな」
「…」

ちとせからジッと見つめられる事数秒。

其れはとても短い時間だったのだろうけれど、僕にとっては何時間にも感じられた長い沈黙。

「…ちとせ?」
「うん、いいよ」
「!」
「武流くんとふたりで出掛けるなんていつ以来?…って、あれ…もしかして初めて…なのかな?」
「うん…初めてだよ。いつも泉水がいて…僕とふたりだけっていうのは…」
「そうだね。冴ちゃんとは結構ふたりで出掛けたりしていたから…やっぱり女の子同士とはちょっと違っちゃうね」
「…」
「何処に行くの?武流くん、何処か行きたい処が」
「あ…後でメール、する」
「そう?解った。じゃあ待ってるね」
「…うん」

そんな話をしながらあっという間にちとせの家まで着き、ちとせは僕にお礼を云ってそそくさと家の中に入って行った。

「…」

ちとせが入って行った玄関をしばらく見つめていた。

(初めて…)

『…ねぇ、ちぃ。今度の休み、何処かに行かない?』

『違うよ。僕とちぃのふたりだけで』

僕にとって初めての一世一代の誘い文句だった。

(ちとせが僕と…ふたりだけで出掛けてくれる!)

思わず湧き上がった【ちとせを独占したい】という黒い欲望が命じるまま口にしていた言葉だった。


だけど誘う事だけしか考えていなかった僕は其の後、ちとせを誘った事を厭というほど後悔する事になるのだった。

secretcrush
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