「…はぁ」

空になった弁当箱を前にため息が出る。

『ねぇねぇ、声、掛けてみなよぉ~』
『えぇーでもご飯食べてるし』
『でも終わったみたいじゃない?お茶を差し入れる振りしてさぁー』

(…丸聞こえだよ)

図書館の飲食スペースで祖母が作ってくれた弁当を平らげた。

(ばあちゃん、ごめん)

こんな処で食べた事を心の中でそっと謝る。

しばらくボーッとしていると目の端にお茶のペットボトルが置かれたのが見えた。

「…」
「お茶…よかったら」

てっきり差し出した主は先刻まで遠巻きに僕を見ていた他校生だと思っていたら違った。

「…どうして此処に?」
「…」
「まさかつけて来たとか云わないよね?竹内さん」
「…云う。つけて来たの」
「…」

(馬鹿正直だなぁ)

お茶を差し出したのは隣のクラスの竹内瑠花(タケウチルカ)だった。

以前勉強を教わりたいと云って僕を自宅に連れ込んだ彼女の本当の目的は僕といかがわしい事をするためだった──という、其の見た目とはおおよそギャップあり過ぎの行動を見せた子だ。

「そんな目で見ないで」
「そんな目ってどんな目」
「…蔑んでいる目」
「あぁ、ごめんね。僕、正直者だから」
「…」

彼女は唇を真一文字にグッと引き締めていた。

其れは何かを耐えている様な堪えている様な表情を作り出していた。

しばらく無言の時間があってから、彼女は徐に僕の向かい側に座り込んだ。

「なんで座っているの?僕に何か用なの」
「…お茶、飲んで」
「は?」
「ご飯食べたら水分取った方がいいよ」
「其れなんの掟?別に要らないけど」
「…」

俯きながらボソボソ喋る様子に段々とイラつきを感じて来た。

だけど彼女が向かいに座った途端、先刻までいた遠巻きの女子高生たちがいなくなっているのを見てほんの少しこの状態がありがたいかもとか思ってしまった。

(まぁ、竹内さんも泉水と張り合う程の容姿だからね、虫よけ程度には役に立ちそう)

そんな酷い事を考える僕は僕自身に少し厭な気持ちになった。

「…はぁ」
「二回目」
「え?」
「ため息…今ので二回目」
「…何、数えていたの?気持ち悪いな」
「…」

大きな目でジッと見つめられ、少しだけ虫よけとして利用している事に申し訳なさを感じた。

(仕方がない)


「で?何か用があってつけて来たんでしょう?」
「…」
「訊いてあげるから云いなよ」
「…」
「ねぇ、竹内さん」
「…ごめんなさい」
「え」

彼女は深々と僕に向かって頭を下げた。

「あの日は…騙してごめんなさい」
「…」
「私…いっぱいいっぱいになっていて…絶対にこのチャンスを逃したらダメだって…誰よりも先に武流くんに告白して…ものにしたいって思って…」
「…」
「武流くん…きっと遊び慣れているんだと思っていたし…其れに泉水さんとも…其の…そういう事していてそうで」
「…」
「慣れない事しているって自分でも思ったけど…だけど其れぐらいしなきゃダメなんだって思って──」
「! ちょっと待って」
「えっ」
「…今、慣れない事って云った?」
「………あっ!」

途端に彼女の顔がカァと赤くなった。

「どういう事」
「あ…あ、あの…」
「本当の事、教えて──じゃないとまた侮蔑した眼差しで凝視するよ」
「! や…其れだけは…もう…もう…」

フルフルと体を震わせて目に涙を溜めた彼女は白状した。

「ほ、本当はわたし……け、経験、ないの」
「!?」

(えっ…嘘!)

「付き合っていた彼は…いたけど…でも…いざそういう事に至る段階になるとどうしても…出来なくて…」
「…」
「だってわたしは本当は武流くんの事が好きで…でも泉水さんと付き合っているって云われていたから…諦めるために…そんなに好きじゃない人と頑張って付き合ったけれど…だけどどうしても…出来なくて」
「…」
「いつも体の調子が悪いとか…そういった嘘で交わして来て…だからあの時のわたしは精一杯虚勢を張ってしまっていて…!」
「…」
「ごめんなさい…本当にごめんなさい!あの日、武流くんに対して酷い事をしちゃったって…ずっと悩んでいて…ちゃんと謝りたいって思っていて…」
「…竹内さん」

(なんだよ、この変わり様)

彼女は真っ赤になりながら自身が恥ずかしいと思う事を全て曝け出した。

多分其処には嘘はないんだろう。

──だけど

(これも僕を手に入れるための作戦のひとつだとしたら大したものだよな)

そんな冷めた目で見ている僕がいるのも事実だった。


こんな彼女を前にしても僕はどうしてもちとせと比べてしまって、健気だとか可哀想とか一生懸命だなという気持ちには全くならなかったのだった。

secretcrush
★ランキングサイトに参加しています。
其々1ポチずついただけると執筆の糧になります。

恋愛ランキング
にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村