私と冴ちゃんはクラブ棟から武道館に続く渡り廊下に立っていた。

其処を通る何人かからチラチラ見られたり、時々冴ちゃんに声を掛けたりしている人をかわしながらも小ノ澤くんが通るのを待っていた。

「…遅いわね」
「うん…」

中々通らない小ノ澤くんにひょっとして今日は部活が休みなのか?──と考えてしまった。

「直接クラスに行った方がよかったのかも知れないわね」
「そんな…今更だよ~きっと今から行っても入れ違いになりそ──あっ」

冴ちゃんの言葉に焦って答えていると、遠目からでも解る大きな小ノ澤くんの姿を捉えた。

「き、来たぁ~!」
「あれがちぃの小ノ澤?……本当にデカいわね」

冴ちゃんが一瞬目を見張ったのが解った。

(冴ちゃん、其の驚きは単に背の大きさだけでって事だよね?)

まさか冴ちゃんまでが小ノ澤くんの事を気にする様になったら絶対に勝ち目はないと不安になりながらも

「ほら、こっちに気が付いたわよ」
「!」

冴ちゃんにトンッと背中を押され、私は其のまま小ノ澤くんの前までつんのめってしまっていた。

「あ」
「~~~!」

よろめきながら現れた私の体を小ノ澤くんは大きな掌で止めてくれた。

「…大丈夫、ですか」
「あ…あ、あああ…あの…」
「…」
「あのっ、わ、私…っ」
「昨日の先輩ですよね」
「! 覚えてて…」
「覚えていますよ。俺、そんなに頭悪そうですか?」
「ち、違う!そういう意味じゃ…」
「…」

(あ…)

不意に小ノ澤くんの視線が私の後ろに注がれた。

「こんにちは」
「…こんにちは」

冴ちゃんが挨拶したのを小ノ澤くんは少しだけ顔を赤らめながら応えた。

(…小ノ澤くん…顏…)

今まで沢山見て来た同じ様な反応を小ノ澤くんもした事に少し胸がズキッとした。

(…やっぱり小ノ澤くんも冴ちゃんの事)

「君、小ノ澤くんだっけ。柔道部の」
「…はい、そうですけど」
「昨日、この子…ちとせの事を助けてくれたんですって?ありがとうね」
「助けるって…別に何もしていません」
「でもちとせは凄く助かったって感激していたわ。ねぇ、ちぃ?」
「あ…う、うん…」
「…そうですか」

冴ちゃんが小ノ澤くんに話し掛ける様子を見ているとなんだかよく解らない気持ちが湧いて来る。

(いつもなら此処で私は委縮してしまう)

冴ちゃんが美人で物凄いオーラを持った女の子なのは解り切っている事。

そんな冴ちゃんと一緒にいれば厭でも比べられるってそんなのもう解り切っているほどに解っている。

見比べれて、厭きられて、見下されている様な気持ちになるのが厭で今まではもう此処から先、積極的にはなれない私がいた。

(…だけど今は……!)

「あの!じゅ、柔道部でマネージャー募集、しているよね!」
「…は?」
「あの…武道館前のインフォメーションボードにそう張り紙があって…」
「……あぁ、あれ。そうですね、募集、しているみたいです」
「其れ…私…応募したくて…」
「先輩が、ですか?」
「!」

『先輩が、ですか?』という言葉を訊いた瞬間、ドクンと厭な汗が流れた。

下心が丸見えだった?とかあんたみたいな不器用そうな女に務まる訳がないとか?

一瞬の内に色んな負のイメージが現れては私の心と体をきつく縛り上げて行く。

(や…やっぱり私なんかじゃダメ…なのかな)

「あの、気持ちは嬉しいんですけど、多分先輩は無理です」
「! そ、そうですか…やっぱり私みたいに…役に立ちそうもないのでは無──」
「来学期に3年生になる先輩は無理です。あれ、今の1年生に向けた募集なんで」
「……へ」

自分の見た目で断られたのだろうと思い落ち込んだ私は小ノ澤くんの言葉で浮上した。

「あのチラシ、書き方悪いですよね。一応マネージャー募集は今の1年か、今度入学する新入生に向けてのものなんです」
「…」
「なので今度3年生になる先輩は無理です」
「…そ、そう…なんだぁ…」

マネージャーになる事は出来なかったけれど、なんだかホッとしている私がいた。

其の安心はきっと──

「でもありがとうございます。マネージャーになりたいって云ってくれて。先輩が1年生だったら俺、大歓迎でした」
「!」

私に向けられた小ノ澤くんの笑顔がとてもさわやかで、其の邪気のない微笑みが一旦は落ち込んだ私の心をとても爽快にしてくれたのだった。

「じゃあ、俺、練習があるんで──失礼します」
「あ…あのっ」
「はい」
「練習…覗いてもいい、かな」
「柔道、好きなんですか?」
「う、うん!好き」
「……いつでもどうぞ」
「!」

今の私には其の言葉だけで充分だった。

小ノ澤くんと何かしらの接点が持てた事が堪らなく嬉しくて…

酸欠になりそうなくらい胸が苦しくなったのだった。

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