キーンコーンカーン


(! 終わった)

授業終了のチャイムの音と共に教室内は騒がしくなる。

だけど不思議な事に私の周りはやけにシンッと静まり返っているかのようにとても静かな空間があった。

(いよいよ…小ノ澤くんに…っ)

小ノ澤くんの事を考えるだけでドキドキして仕方がなかった。

(えっと…えっと…逢ったらまず…部活…マネージャーの事を訊いて…)

頭の中で何度もシミュレーションしてみる。


「ちぃ」
「!」

トンッと肩を叩かれハッと我に返る。

「どうしたの」
「あ…さ、冴ちゃん」
「大丈夫?行ける?」
「……う、うん」

一緒について来てくれる事になった冴ちゃんを前にして、違う緊張が私の中で生まれた。

(そうだ…冴ちゃんが一緒だった)

其の事は私の心に大きな影を生んだ。

今まで好きになった人はみんな冴ちゃんの事が好きだった。

冴ちゃんの存在を知らない子でもいざ冴ちゃんを前にするとあっという間に好きになってしまう程魅力的な冴ちゃんが、今回は私と一緒に小ノ澤くんに逢いに行くという展開になっている。

(…やだなぁ)

心の中に蠢くそんな厭らしい想い。

いつもなら傍にいてくれる事に心強さを感じる冴ちゃんの存在が、今のこの時ほど疎ましいと思った事はなかった。

「早い方がいいよ」
「え」

少し俯き加減で悶々と考え事をしていた私に冴ちゃんは云った。

「わたし、ちぃが今何を考えているのか解るよ。今までみたいに好きになった男がまた冴ちゃんの事を好きになったらどうしよう──って、大方そんな事を考えているんでしょう?」
「! 冴ちゃん」
「何年ちぃの親友やって来たと思っているの。解るよそんなの」
「ごめ…ごめんね、私…すごく酷い事考えている…」
「…この正直者」
「ふがっ」

いきなり冴ちゃんに鼻をキュッとつままれた。

「ちぃの気持ち、解るよ。でもだからこそわたしはちぃと一緒にそいつに会いに行って確かめる」
「…」
「遅かれ早かれちぃと接触するって事はわたしの事を知る機会だってあるんだ。だったら早い方がいい。仮にちぃの好きな奴がわたしの事を好きになっても──其れでもちぃは諦めないんでしょう?」
「!」
「今度はそんな事で諦めたりしない程に好きなんでしょう?」
「…冴、ちゃん」

先刻冴ちゃんにつままれ痛んだ鼻を擦りながら私は冴ちゃんの言葉を真剣に訊いた。

(そうだ私…ちゃんと決めたじゃない)

例え小ノ澤くんが冴えちゃんの事を好きになっても…

其れでも諦めないって──


「…」
「ちぃ?」
「…ありがとう、冴ちゃん」
「…」
「本当に…冴ちゃんはいつも私を助けてくれるね」
「何、助けるって。当たり前の事しか云っていない」
「うん…そうなんだよね…でも其の当たり前に私はとても救われているよ」
「!」

冴ちゃんに向かってめいっぱいの笑顔を見せた。

(弱い私を冴ちゃんも武流くんもいつもいつも助けてくれる)

私はもっと自分が置かれている位置に感謝しなければいけないのだと改めて思ったのだった。









『うん…そうなんだよね…でも其の当たり前に私はとても救われているよ』

そう云ってわたしに向けられたちとせの笑顔は思わず抱きしめたくなる程に破壊力のあるものだった。

(ヤバいって…!本当悶えそうなんだけど!)

表向き冷静でいる事の難しさを此処最近はひしひしと痛感している。


ちとせの中が何かが少しずつ変わろうとしている。

其の変化はわたしや今宮にとっていい事なのかよくない事なのか──其れは今の時点では解らないけれど。

今宮が初見した小ノ澤に対して云っていた様に、解らないけれどよくない予感がすると云った言葉の意味が、今のちとせにも当てはまりそうな気がして少しわたしは怖くなったのだった。

secretcrush
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