キーンコーンカーン

「やっとお昼だぁ~あぁ~お腹空いた」
「ちぃ、お弁当食べよう」
「うん──あれ、武流くんは?」

いつもお昼は冴ちゃんと武流くんと教室の机を引っ付けてお弁当を食べていた。

だけど今日は武流くんの姿が見えなかった。

「あぁ、今宮は購買に行くって。先に食べてていいって云ってたよ」
「え、購買?なんで」
「弁当忘れたらしい」
「えぇっ、珍しいね。いつもおばあちゃんの手作りお弁当持参の武流くんなのに……ハッ!まさかおばあちゃん、お弁当が作れないような病気に──」
「心配しなくてもいいよ。単に忘れただけだから」
「そう、なの?心配だなぁ…今日帰りにでもおばあちゃん家に寄ってみよう」
「ちぃは本当優しいな」
「? 何が」
「…いや、なんでもない」

冴ちゃんは少し目を伏せてお弁当を広げていた。

(はぁ…目を伏せた冴ちゃん、お人形さんみたいに綺麗だなぁ~)

なんて私が呑気に考えている時、武流くんが本当は何をしに行っていたなんて知る由もなかったのだった。





「きゃっ!今宮先輩だぁぁぁ」
「えぇっ、なんでこんな処にいるのぉー」

ただ廊下を歩いているだけで騒がれる──そんな事にはとっくに慣れてしまっている僕はまとわりつく黄色い歓声をさして気にも留めずに1年生の教室が並ぶ廊下をゆっくりと練り歩いていた。

(…いない、なぁ…其れらしいの)

せめてクラスが解っていれば絞り込めただろうとため息をつく。

そもそも背が高い──というだけでは解りにくいという事もこの場に来て気が付いた。

(教室で座って弁当食べていたら背の高さなんて解らないよな)

数人の女子に掛けられる声に適当に返事をして体裁のために購買へ向かう方へ足を進めていた其の時

「あっ」
「!」

1-3の教室の前を過ぎようとした瞬間、教室の中から出て来た男とぶつかり驚いた。

「すみません、大丈夫ですか」
「あ…うん、大丈夫」
「そうですか」
「…」

瞬間(こいつだ)と思った。

178センチある僕よりも更に10センチ以上はあろう背丈に当たった時の感触と制服からも解るなだらかな隆起から筋肉質の体だろうと思われる其れはまさにちとせが好きそうなタイプだったから。

「小ノ澤ぁー購買行くならついでに焼きそばパン買って来てー」
「あぁ、解った」

男に声を掛けたクラスメイトの『おのざわ』という名前で其れは確信した。

(やっぱり)

実際に目にしてぼんやりとしていた焦燥感は、途端に激しい嫉妬心に変わった。

「──失礼します」
「あ…うん」

丁寧にお辞儀をして僕から離れて行く男を見てなんと云い表せばいいのか困った。

礼儀正しい其の姿は今までちとせが好きになった男にはなかったものだった。

(第一印象は……悪くない)

だけど最初の印象だけで全てを決めつけてはいけないという事は今までの経験からも学習済みだ。

其の存在感に思わず意識を持って行かれたけれど、冷静になろうと頭を何度か振ったのだった。



「どうだった?」
「…」
「見て来たんでしょう?ちぃの」
「…よく解らない」
「は?」

SHR前の短い時間に泉水が話しかけて来た。

泉水に訊かれた事に対して僕はそう答える事しか出来なかった。

「解る訳ないよ。あんな短い時間で」
「まぁ、そうよね」
「ただ…今までとは少し違うタイプなのかも」
「…」
「よく解らないけど…よくない予感がする」
「どういう意味」
「…其れが解らないから解らないって云っているんだよ」
「何其れ──いいわよ、わたしが確かめてみるから」
「…」

昼休み、購買に向かった男の後について僕も同じ場所に行ったのだけれど、其処での男の存在感はただならぬものがあった。

勿論背が高くて人混みに中にあっても頭ひとつ抜き出ているという点では目立つ存在なのだけれど、同じく悪目立つ僕とは違った存在感があるように思えてならなかった。

(其の違いが何か解らない…同じ見た目で目立つという点では共通しているように思えるのに)

正直、男は背の高さ以外は特に目立つ容姿でもなかった。

特別優れている訳でも劣っている訳でもない、ごく普通の顔立ちだった。


なのに何故か今までのような、ちとせが好きになった男たちには持たなかった危機感がじんわりと僕の胸の中に去来していたのだった。

secretcrush
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