体育館に行くために廊下を歩いていると、通りすがりにかたまっている数人の女子の話が聞こえて来た。

「え、本当?其れ」
「本当らしいよ。瑠花、直接泉水さんに訊いたらしい」
「やったぁー今宮くんと泉水さんが付き合っていないなら堂々と告れるよね」

(えっ)

何、今の…

(武流くんと冴ちゃんが…付き合っていない?)

「あぁーダメだよ。だってもうとっくに瑠花にお持ち帰りされているから」
「嘘!なんて早業かましてんのよ、瑠花ったら」
「ズルいよね、男には不自由していないのに今宮くんまで狙うとかって」
「でもあの瑠花に狙われたらもうおしまいだぁ…今頃きっと…あぁぁー厭ぁぁ想像したくなーい!」

(……)

『るか』って確か隣のクラスの竹内さんの事だよね?

(男子みんな噂していたなぁ)

冴ちゃんとはタイプの違うお嬢様系美少女って。

(武流くん…お持ち帰りされちゃったんだ)

なんだか胸の奥がモヤッとした。

この感じは今までにも何度かあったモヤッとだ。

其れはきっと私の知らない処で武流くんがどんどん大人になって行くのを寂しいなと思っている気持ちだ。

そして其れはきっと冴ちゃんにも云える事で。

(私ひとりがいつまで経っても成長出来ていない)

そんな焦燥感を感じる事が度々あった。

(私も…頑張らなくっちゃ!)

私は私なりのペースで成長するしかないのだ。

きっと背伸びしても失敗しちゃうんだろうなと思ったから。




体育館に着くと、外からでも聞こえる歓声の声にドキッとした。

少しだけ開いた扉の隙間から中を覗くと、どうやら男子バスケ部が紅白試合をしているようだった。

数人のギャラリーが黄色い声を出して応援していた。

(バスケ部と…バレー部…)

体育館の中で小ノ澤くんの姿を見つける事は出来なかった。

(あれ…部活って体育館でやっているんじゃないのかな)

運動場を見ると、其処ではサッカー部と野球部が練習している。

やっぱり其の中に彼の姿を見つける事は出来なかった。

小ノ澤くんは背が高いから数人の群れの中でもすぐに見つかると思った。

(…いないよね…一体何処に)


校庭周りをグルグルしていると、入学してから滅多に──というかほぼ来た事のなかった武道館にやって来た。

其処は主に剣道部や柔道部が使用していると訊いた事があった。

(あ、もしかして)

外に居ても聞こえる雄々しい掛け声にドキドキしながら格子窓からそっと覗いてみると

(! いたぁぁぁぁ──)

武道館内、奥半分のスペースに畳が敷かれていて、其処で柔道着を来た人たちが練習していた。

其の中に小ノ澤くんはいた。

(柔道部だったんだ)

同じ様な身長の部員の中で特に背の高い彼はとても目立っていた。

(はぅぅぅ~凄い~~)

柔道の事はよく解らなかったけれど、そんな私でも小ノ澤くんの動きはとても気持ちがいいなと思った。

(凄い、カッコいい~~)

視線はガッシリ小ノ澤くんにロックオンされてしまって中々逸らす事が出来なかった。

「こらぁ、何覗いているっ」
「!」

いきなり後ろから声を掛けられビクッとした。

「部活動のない生徒は早々に下校しなさい」
「あ…は、はぃ…」

校外の見回りをしているらしい先生にそう云われてしまっては帰るしかなかった。

(はぁ…もっと見たかったなぁ…)

出来れば近くで見たかった。

間近で練習する彼の姿が見たいと思った。

(どうしたら正々堂々と見れるんだろう)

そんな事を考えながら武道館正面入り口の横にあったインフォメーションボードに【柔道部マネージャー募集中】という張り紙を見つけた。

「えっ」

私は直ぐに其れに飛びついた。

「マネージャー…」

其処には経験不問、女生徒大歓迎、一緒にインターハイを目指そう、などと書かれていた。

(そうか、柔道部のマネージャーになればいいんだ!)

今まで帰宅部でどの部活も経験した事がなかった私は、初めてやってみたいと思える部活に巡り合えた。

(まぁ…動機はかなり不純なんだけれど)

目指すきっかけは不純だけれど、其れでも小ノ澤くんが好きなものは好きになりたいと思っている私がいた。

(柔道…全然解らないけど……あ、武流くん、知っているかな)

頭に浮かんだのは武流くんだった。

何でも知っている頭のいい武流くん。

訊けば教えてくれるかも、という気持ちから帰りに武流くんの家に寄って行こうと思った。

(あ…でも…武流くんお持ち帰りされていたっけ)

時間的にどうかな、と思いながらも寄るだけ寄ってみようと思ったのだった。

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