「ちぃ!」
「あ、冴ちゃん」

ドキドキしている胸を押さえながら私はなんとか教室まで辿り着いた。

私を見た冴ちゃんが慌てて駆け寄って来た。

「ちぃ、大丈夫?3年に呼び出されたって教室にいた子に訊いて」
「あ、うん…大丈夫だったよ」
「何か酷い事を云われた?今宮について」
「うん…まぁ、いつもの事だよね。やっぱり私が武流くんや冴ちゃんと一緒にいるのって…おかしいのかな」
「そんな事ない!そんな事…おかしいだなんて事、絶対にないから!」
「…冴ちゃん」

(珍しいなぁ、冴ちゃんが此処まで怒鳴るの)

「ちぃ、お願い、わたしから離れたらダメだよ」
「? 離れないよ。冴ちゃんが私から離れて行く事はあっても、私が冴ちゃんから離れる事なんてないよ」
「わたしだってちぃから絶対離れないから!其れ、覚えておいてよ」
「う…うん…」

(冴ちゃん、いつにもまして感情的だな)

でも冴ちゃんみたいな綺麗で優しくて頼りがいのある女の子が私から離れないって云ってくれるのがありがたくもあり嬉しかった。

誰もが憧れ羨む完璧な女の子の冴ちゃんはちいさい時のまま、変わらずに私の親友であり続けてくれる事が私の自慢でありちっぽけな優越感だった。

「じゃあ帰ろうか。そうだ、今日何処か──」
「あっ、あの、冴ちゃん」
「何?」
「あ…あのね…私、ちょっと…寄りたい処があるんだ」
「何処?付き合うよ」
「あ~えっと…其の…」
「…」

急に先刻の事を思い出してもじもじしてしまう。

そんな私を冴ちゃんは見つめ、そして何か云いた気な顔をした。

(多分、冴ちゃんには解っちゃうんだろうな…)

今までこういう感じは何度かあって、いつも私の傍にいた冴ちゃんは其れを敏感に感じ取っているのだろう。

「あのね、先刻3年生に呼び出されて…ちょっときついなぁと思っていた処を通りがかった1年生に助けてもらったの」
「…」
「其の人ね、すっごく背が高くておっきいの!3学期から転校して来たって云ってて、部活するって──」
「好きになったの?」
「!」
「背が高くて大きくてまるで亡くなったお父さんみたいな感じだった?」
「そ…そんな事は…ないけど…」
「でも好きになっちゃったんでしょう?」
「………ぅん」
「…」

冴ちゃんはいつも私が好きになる男の子のタイプが亡くなった父に似ていると云う。

そうなのかな?と私自身はよく解らなかったのだけれど。

でもよくよく考えてみると今まで好きになって来た男の子はみんな背が高くてガッシリしたまるで熊さんみたいなタイプ だったかも知れないなと思った。

(無意識にそういう人を好きになっているのかな)

恋をする時いちいち頭で考えてしていないから其処ら辺の事はよく解らなかった。

「──で?」
「え」
「其れで寄りたい処って何処」
「あ…あの、体育館に…」
「…」
「部活するって云っていて…だから、あの…ちょっと覗きたいなぁ…って」
「そう」
「少し見るだけでいいの、だから」
「じゃあわたし、先に帰るね」
「え…冴ちゃん、一緒に行ってくれないの?直ぐ済むし、其れに」
「わたしが行くと色々迷惑でしょう?」
「…」
「私はちぃの恋路の邪魔はしたくない。此処からはちぃがひとりで頑張るんだよ」
「…冴ちゃん」

冴ちゃんは少し哀しそうな顔をして其のまま教室を出て行ってしまった。

(冴ちゃん…気にしている)

私の恋愛に関しての事になると冴ちゃんはそっけなくなる。

其れは今までに繰り返されて来た苦い体験が積み重なってそうなってしまっている事だった。

苦い体験──其れは今まで私が恋して来た男の子たちはみんな冴ちゃんの事が好きだったという事。

決死の思いで告白しても、いつも云われるのは「ごめん、おれ泉水の事が好きなんだ」という決まり文句だった。

中には私と冴ちゃんが仲がいい事を利用して一旦私の告白を受けてから冴ちゃんに近づいた男子もいた。

幼かった頃はそんな冴ちゃんを酷い言葉で罵った事もあった。

美人過ぎる冴ちゃんが悪い、冴ちゃんがいるから私は好きな人に好きになってもらえないんだ──と。

其の度に冴ちゃんは私に謝ってくれた。

『ごめんね、わたしがこんなんでごめんね』と。

冴ちゃんは何も悪くないのに。

寧ろ冴ちゃんは私の事をとても大切にしてくれていたのに。

失恋の数が増え、年を重ねる毎に私はちゃんと解って来た。

自分の恋が成就しないのは私の努力が足りないせいなのだという事を。

私の好きな人が冴ちゃんを好きだったとしても、私は振り向いてもらうために努力しなければいけなかったのだ。

いつも…

いつも私は諦めていた。

好きな人から冴ちゃんの事が好きだと云われる度に『あぁ、そうなんだ、じゃあ仕方がないや』と。

いつもそうだったから…


──悪いのは私なんだ


(だから私、今度こそ頑張るから!)

去り際に云われた冴ちゃんからの言葉も後押しになって、私は決めたばかりの決意を胸に鞄を手に取り教室を後にしたのだった。

secretcrush
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