昔から大抵の困った事は笑っていれば上手く解決出来ると信じていた。

実際解決した事が多かったから其れは今でも信じて疑わないでいた。

──なのに

「何ヘラヘラ笑ってんの?」
「ってか馬鹿にしてんじゃね?」
「なんか…ムカつく」

「…」

(笑ってもダメな時はある…の?)

ついそう考えてしまう様な状況が今現在起こっている。


職員室に呼ばれていた冴ちゃんと一緒に帰ろうと教室で待っていると、いきなり3年生が三人、私の元にやって来た。

話があるから体育館裏まで付き合えと云われた瞬間厭な予感がしたけれど…


「笑ってないでちゃんと答えなさいよ」
「今宮くんとどういう関係だってーの」
「彼女でもない癖にやけに王子の周りをチョロチョロしてるの癇に障るんだよ」

(予感、当たりまくり)

3年生にとっては卒業間近でここぞとばかりに恋愛関係の事で動きがあるのだろう。

こうやって呼び出しをくらった事はもう何度もあったけれど、其の度に笑って『武流くんは幼馴染みで、親友の冴ちゃんと付き合っているので私には関係ありません』と云えば大抵見逃してくれていた。

「だ、だから先刻から云っている様に、武流くんとは幼馴染みで、武流くんは冴ちゃんと付き合っているんです」
「其処まで解っていてなんで今宮くんの周りに居る訳?」
「立場弁えてないの?チョロチョロするって事で生まれる誤解ってあるんだけどぉ」
「あんたの存在、結構目障りなんだよ?大して可愛くないくせしてなんであのふたりにちやほやされてんのさ!」

(う゛う゛~か、可愛くないって事は本人が重々承知していますよ~~)

よく解らない因縁をつけられどうやってこの状況を切り抜ければいいのか──と焦っていると

「こんな処で何してんですか」

「「「!」」」

(えっ)

いきなり聞こえた低い声に其の場にいた全員が驚いた。

(え…な、何…この人)

其処に立っていたのは滅茶苦茶背の高い、筋肉質の男子だった。

「ひょっとして苛めの現場ですか?俺、第一発見者で通報しますよ」
「な、何云ってんの?そんなんじゃないわよ!」
「通報って、バッカじゃないの」
「ちょっとした話し合いでしょ、変な事云うなっ」

3年生は其の男子のただならぬ雰囲気に酷く怯えている様だった。

「あ、そうですかーじゃあ続きどうぞ。俺、観察させてもらいます」
「はぁ?何云ってんの、こいつ」
「行こ、もう、行こうよ」
「もうチョロチョロすんなよ」

彼女たちは弱弱しく捨て台詞を残しながら其の場から去って行った。

「はぁ~~」

(よかった…何もされなかった)

ホッと安堵した途端、ズルッと足元から崩れる感覚がした。

「あっ」
「──っと」
「!」

腰が抜けて其の場にへたり込んでしまう体がいきなり宙に浮いた。

「大丈夫ですか」
「あ…あっ…」

其の背の高い男子は私を軽々と持ち上げ、其のままお姫様抱っこの状態を取った。

「先輩、軽いですね」
「! な、ななな、なんで先輩って」

背の低い、ちびっこの私が何故先輩だと解ったのだろうとテンパっていると

「リボンの色。赤じゃないですか、2年生ですよね?」
「……あ」

(そうだった…)

うちの高校はネクタイとリボンが学年で色が違っていた。

3年生は黒、2年生は赤で1年生は青──という感じで。

「あ…そ、そっか…ははっ…驚いちゃった」
「…」

抱かれている男子のネクタイを見ると青色だった。

「1年生…後輩」
「はい、3学期から転校して来ました」
「そ、そうなんだ…」
「…」
「…」

少し会話が途切れ気まずい雰囲気が私たちの間に流れた。

(うぅ~どうしよう…何を喋ったら…)

そんな事を考えていると

「もう大丈夫ですか?」
「え」
「足腰、もう立てますか」
「あ…あ、あ、あぁぁぁっはい!大丈夫ですっ」

(そうだ!私お姫様抱っこされっ放しで)

ゆっくりと優しく下ろされても、恥ずかしさのあまり俯いたままになってしまった。

「其れじゃ、俺、部活があるんで」
「あ…あの、ありがとうございました!」
「? なんで敬語」
「え」
「先輩じゃないですか。後輩に敬語、おかしいですよ」
「あ…う、うん…ありがとう、助けてくれて」
「別に。通りがかっただけだから」

素っ気なくそういって立ち去って行く彼に思わず

「あの、私2-3の井関ちとせ、君は…」
「…」

私の言葉に振り向いた彼はやっぱり大して表情も変えずに

「1-3の小ノ澤忍」

そうひと言云って其のまま行ってしまった。

(おのざわ…しのぶ)

私は何度も其の名前を心に刻んだ。

其の度にドキドキと心が高鳴る。


刻み込んだ名前が緩やかに私の胸を締め付けたのを感じた時、私は彼に恋をしたと気がついてしまったのだった。

secretcrush
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