わたしが他の女の子と何処かが違う──と感じたのは随分ちいさい時からだった。

「ねぇ、冴ちゃんって随分おとなしい子ね」
「あらそう?子どもってこんな感じじゃないの?」
「ん~普通知らない人に抱かれたら泣きそうなものだけど」
「赤ん坊の頃から色んな人に抱かれているから免疫ついているんじゃないかしら」
「そういうものなのかな…でも本当可愛い顔しているわね。流石あなたの子ね」
「ふふっ、ありがとう」

最初にある記憶は母の友だちがわたしを見に遊びに来た時の記憶だった。

其の友だちという女の人は元モデルの母とは違って素朴な可愛らしさのある人だった。

彼女の胸に抱かれると母とは違った自然ないい香りが鼻孔をくすぐりとても安心した記憶があった。

わたしの母は読者モデルからファッションモデルにのし上がった人で、兎に角自分の美貌にかける事に関しては物凄い執念があった。

人から訊いた話では、母は産んだばかりのわたしに胸の形が崩れるからという理由で母乳を飲ませる事を拒否したらしい。

しかも腕に余分な筋肉がつくのを嫌ってわたしを抱く事もなかったそうだ。

産後まもなく母はわたしを自分の実家に預けて仕事復帰した。

しかしほんの数年でモデルとしての仕事は激減していった。

そんな母のために実業家である父は母名義のモデル育成教室を開かせた。

教室は都会ではなく、母が生まれ育った地元のこの町に開いた。

其れは都会では掃いて捨てる程いる美しい人の中にいるよりも田舎のちいさな町の方が母の其の美貌がより一層際立つと考えたからに過ぎない。

「先生、冴ちゃん、また可愛くなりましたね!子役で売り出したりとか考えていないんですか?」
「考えていないわ。ただ可愛いだけじゃ通用する幅は限られて来るし、どうせならもう少し娘らしくなってからの方が色々使い道があると思うんだけれど」
「使い道って…先生、自分の娘に酷い云い様~」

「…」

母の教室に通う人、勤める人、其の全てが女の人だった。

こんな狭い町の中でも色んな女の人がいて、同じ女の人でもわたしは【好きな人】と【嫌いな人】を無意識に区別していた。

母は幼いわたしに対しても子どもらしい扱いは一切しなかった。

「冴、箸は正しく持ちなさい」
「くちゃくちゃ音を立てて食べない」
「靴はきちんと揃えなさい」
「人の話は黙って訊く、口を開けて訊くなんてみっともない真似するんじゃありませんよ」

母のわたしへの厳しさはある意味、女としての嫉妬心や苛立ちの気持ちから来ていたんじゃないと大きくなってから思う事になるのだった。


──そんな息苦しい毎日を送るわたしの前にひとりの女の子が現れた


「ふぇ…ふぇぇぇ」
「…」

最近保育園に入園した女の子が教室の片隅でひとり絵本を見ながら泣いていた。

ちいさな女の子は何度も目を擦って涙を止めようとしていたけれど、涙は一向に止まる事がなかった。

「…どうしたの」
「!」

不意に声を掛けたわたしを見て、女の子は涙で溢れる大きな目を見開いた。

そして

「お…おおぉぉ…おひめさまぁ!」
「えっ」

彼女はわたし目掛けてガバッと抱き付いて来た。

其の瞬間、わたしの中で今まで感じた事のなかった衝撃が走った気がした。

「おひめさまぁ、おひめさまぁぁぁぁ」
「…」

ガッシリと掴まれて泣いている女の子はわたしから中々離れようとしなかった。

保育園の先生が来てわたしから女の子を離そうとしたけれど、女の子が大泣きをする事になるので結局園が終わるまでわたしは女の子に抱き付かれたままになっていた。

親が迎えに来るのを待っている間に女の子は寝てしまって、迎えに来た女の子の母親が優しい笑顔で何度も「一緒にいてくれてありがとうね」とお礼を云ってくれた。

女の子の母親から、女の子は数ヶ月前に大好きだった父親を亡くしたばかりで、母親の前では気丈に振る舞っているけれど父親に買ってもらった絵本を見るとひとりで泣いているのだと教えてくれた。

女の子が読んでいた本、其れは【眠れる森の美女】という本だった。

どうやらわたしが其の絵本の挿絵のお姫様に似ていたという驚きと父親のいなくなった哀しみが合わさって泣き出してしまったという事らしい。

其の日あった出来事はわたしの世界をまるっと変えてしまった。

今までにあんなにわたし自身を求められた事なんてなかった。

ちいさくて可愛い女の子がわたしを抱きしめて、何時間も離さないなんて事は初めての事だった。

其の時初めてわたしは【求められる悦び】という快感を知った。

一番最初に愛されるべき、愛情を与えてくれる存在である母から与えられなかった愛情をわたしよりもちいさくか弱そうな女の子から与えてもらったという事はわたしにとっては初めての出来事で、其れと同時にかけがえのない存在を見つけたという高揚感が私を包んだ。


以来わたしは其の女の子──ちとせの虜になった。


別に恋愛対象が女の子という訳ではない。

根っこの部分ではノーマルだ。

ただ、ちとせに関してだけは特別だった。


もしも


もしも


もしもちとせがわたしのものに…


わたしだけを愛してくれるのならわたしは他の何者も要らない。


ちとせだけがいれば、ちとせがわたしを愛してくれれば他には何も要らない。


(あぁ…ちぃ)

どうかわたしを愛して。

好きだと云って、そしてあの時の様にきつく、いつまでも抱きついて欲しいよ──

secretcrush
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