ちとせは得体の知れない僕を無条件で受け入れてくれた最初の女の子だった。

僕にとっては特別な…

何者にも代え難いたったひとりの女の子だった。

其れは何年経っても僕の中では変わる事のない…

いや──

其の想いは年を重ねる毎に強さを増して行く。





『…ん』

「…」

『たけ……ん』

「……ぇ」


──柔らかな振動で揺り起こされる意識


「武流くん」
「!」

頭に感じたよく知る温もりと、聴きたくて仕方がなかった可愛らしい声を持つ存在に気が付き、僕は慌てて飛び起きた。

「あ、起きた」
「……ちぃ」

目の前にいたのは先刻までちいさな女の子だったちとせだ。

(…あぁ、寝ていたのか)

ベッドに倒れ込むと同時に寝てしまっていたらしい。

(夢…か)

胸のドキドキが治まらない。

「寝ていたのにごめんね?おばあちゃんが武流くん部屋に居るから上がって行けって云ってくれて」
「あぁ、大丈夫。少しうつらうつらしていただけだから」
「そう?武流くん、疲れてる?今、お話し出来る?」
「何、ちぃらしくない云い方だね。そんな遠慮、いつもはしないのに」
「あ…うん」
「…」

(なんだか話しにくい事を云おうとしている?)

いつもと少し様子がおかしいちとせを前に色んな想いが張り巡らされる。

(ちとせが部屋に来るなんていつ以来ぶりだろう)

自分が長い時間を過ごす空間に、閉じ込めておきたいと思う女の子がいるというだけでなんだか変な気分になる。

(って、何を考えてる!煩悩退散っ)

邪な気持ちを冷静に保とうと必死の僕に、ちとせは少し俯きながらも口を開いた。

「あ、あのさ、武流くんって…柔道、詳しい?」
「……は?」
「えっと…あの…柔道…」
「…」
「詳しかったら…其の、ルールとか技とか…そういうの、教えて欲しいなって…」
「…」

ほんのり顔を赤らめながら其の可愛らしい口から吐き出される言葉に少しずつ僕の心は冷えて行く気がした。

『なんでも転校して来た1年に…そいつに一目惚れしたみたい』

数時間前に泉水から訊かされた言葉とシンクロする。

「あ、あのね、知らないならいいの!ただ知っていたら…少しでいいから──」
「…中学の時、体育でやった程度の知識しかないけど」
「え」
「本当に浅い知識しかないけど、其れでもいいの?」
「! うん、いい、浅くていい、少しでいい!」
「…そっか」

(あぁ…弱いな、僕)

厭だ厭だと思っていても、ちとせの其の笑顔を見た瞬間、どうしようにもなく幸せを感じてしまうのだから。

「本当武流くんって頼りになるね!やっぱりちぃの王子様だ~」
「…」

可愛いちとせ。

純粋で無邪気で裏表のないちいさな頃のまま真っ直ぐ育って来た僕の天使。


──だけど


「あ、そういえば武流くん、冴ちゃんと付き合っていなかったって本当?」
「え」
「今日女子がそんな事を云っているの訊いて…びっくりしたよ!武流くんと冴ちゃん、仲いいからきっと私の知らない処でつきあっているんだろうなって思っていたのに」
「…」
「じゃあ武流くんも冴ちゃんも他に付き合っている子がいるって事なのかな?…なんかふたりのそういうの、訊き辛くて今まで曖昧にして来ちゃったんだけど──」
「…」


君は時々意地の悪い悪魔になってしまうんだね──


secretcrush
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