子どもというのは素直で正直で、思った事を其のまま口に出してしまう生き物だった。


「はい、みんなこっちをむいて~新しいお友だちがやってきましたよ」

保育園の先生は優しく肩に手を添えながら僕を少し前に促した。

「いまみやたけるくん、5歳です。みんなたけるくんと一緒に愉しく過ごしましょうね」

先生の紹介が終わると同時に室内は騒めき始め、そして容赦ない言葉が投げ掛けられる。 

「えぇーなんでがいじんなのにたけるなのぉー」
「すごーい、めがあおいよっ」
「かみのけきいろい!みんなとちがうよ?なんでー」

「…」

子どもたちからの見たまま感じたままに発せられる言葉はまるで鋭い刃物の様で、僕の心を何度も何度も突き刺した。

「たけるくんはおとうさんがフランス人で、おかあさんが日本人のハーフなの。おとうさんとおかあさんのお仕事の都合でおばあちゃんと一緒に住む事になって引っ越しして来たんですよ」
「え、おとうさんがいじんなのになんでにほんのなまえなの?」
「あ、しってるー。けっこんしたらおとうさんのみょうじになるんだよね」
「がいじんなのにいまみやっていうの?なんかおかしくない?」

「あぁ…ちょっとちょっとみんな、落ち着いて、静かにして~」

初めての保育園は予想していた通り、静かに僕を迎え入れてはくれなかった。


フランス在住で画家の父と絵画専門のバイヤーの母がパリで出逢い愛し合い僕が産まれた。

仕事を生きがいにしていた母は結婚してフランスに留まる事を望まず、其のまま僕を連れて日本に帰国した。

父もフランス人特有の気質からか籍を入れる結婚制度には積極的ではなく、僕を通して母と繋がっているだけで満足している様な人だった。

世界中あちこち飛び回っている母に実質子育ては無理な話で、其れを見かねた母の母、つまり僕にとっては祖母にあたる人が僕の面倒を見てくれる事になったのだ。

籍を入れない結婚──事実婚の母に周りの母親たちの態度は冷ややかなもので、そんな親を通じて子どもたちも僕に対しては何処かある一定の距離を取っているきらいがあった。

そんな中で初めて僕に触って来た女の子がいた。

「!」
「わぁ!キラキラでふわふわぁ~」
「なっ…」

其の女の子は僕の髪の毛をベタベタと触り、そして頭全部をギューッと抱きしめた。

「ふぁ…やぁらかぁ~い…いいにおい~」
「~~~」

其の瞬間、僕の心に温かなものが流れ込み、甘い疼きを感じた。


──今思えば、これが僕が彼女に恋をした瞬間だった


「こらぁ、ちぃ、さわっちゃだめ!」

いきなり聞こえた声と共に僕から柔らかな女の子がはがされた。

「きゃぅ!さえちゃん、いたいよぉ」
「あっ、ご、ごめん!どこがいたい?ちぃ、ごめんね」
「…へへっ、うそ。そんなにいたくないよ~」
「! もう、ちぃっ」

「…」

ちぃと呼ばれている女の子と、さえと呼ばれている女の子。

ふたりの会話を茫然と見ていると

「たけるくん、わたしはちとせです。いせきちとせ。なかよくしてね~」
「え…」
「それでぇ、このこはいずみさえちゃん。わたしのしんゆうです」
「ちぃ、こんなやつにわたしのなまえをおしえるな」
「なんで?おともだちになるにはちゃんとなのらなきゃだめなんだよ」
「ともだちって…わたしはべつにこんなのとともだちになるなんていってない」

(なっ…なに、このこたち)

ちとせという名前の天使の様な女の子にボーッと見惚れると同時に、さえという滅茶苦茶可愛い女の子の毒舌がおかし過ぎてつい眺めてしまった。


──そう、これが欲しくて堪らない僕の愛おしいちとせと、こんな時分から反りの合わない泉水との出逢いだった


「ちとせ」
「あっ、ママっ」

「…」

僕もちとせの事を『ちぃ』と呼ぶようになった頃、初めてちとせの母親を見た。

いつもは早い時間に僕を祖母が迎えに来て、残されるのはいつもちとせだった。

ちとせの母親はふっくらとしていて、笑った顔もちとせと似ていてとても柔らかいものだった。

ジッとちとせと母親のやり取りを見ていた僕に気が付き母親が話しかけて来た。

「あぁ、君が噂の王子様ね」
「え」
「ちとせがねいつも話してくれるの、保育園に王子様が来たって。絵本に出て来る王子様みたいに綺麗な金髪と青い目がとっても素敵だって」
「え…えっ…」
「本当とっても綺麗ねぇ~吸い込まれそう~」
「でしょう?たけるくん、すっごくきれいでしょう?ママ」
「うんうん、王子様だね。いいなぁ、ちとせ、王子様と一緒に遊べて」
「でしょう!ちとせ、たけるくんがだいすきなんだぁー」
「えっ!」

ちとせの言葉にドキドキした。

其れはすっかりちとせの事が大好きだった僕にとっては夢の様な言葉で、思わず『ぼくもちぃがだいすきだよ』と云いたかったのだけれど

「たける、ごめんねぇ迎えが遅くなって」
「!」

丁度祖母が迎えに来た事により話は其処で終わってしまった。

だけど僕にとって其の時発したちとせの言葉がこれから先、何十年経っても僕の中から消える事はなく、長く僕の心も体も甘く締め上げて行く事になるのだった。

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