「こんにちは~」

「あ」

聞き覚えのある声に慌てて立ち上がった。

「あぁ、美野里ちゃんいたの。姿が見えなかったからいないのかと思っちゃった」
「すみません、ちょっとしゃがんでいて」

来店したのは蘭さんだった。

昨日お店で見たようなバッチリメイクに煌びやかなドレス姿じゃなくて、スッピンに近いナチュラルな感じのメイクに白いシャツにジーパンというラフな格好が目を惹いた。

(わぁ、明るい処で見ると蘭さんって凛としていてカッコいいな)

女性を見て初めてポッと頬を赤らめてしまった。

「頑張って起きてお茶を飲みに来たわよ」
「ありがとうございます」

そんな言葉を交わしながら蘭さんはカウンター席に腰を下ろした。

「ご注文はどうしますか」
「コーヒーください」
「かしこまりました」

注文を受け、準備をしていると頬杖をついた蘭さんが話し掛けて来た。

「美野里ちゃん、二日酔いじゃない?」
「あ…昨日はすみませんでした。私、酔っぱらっちゃってご迷惑を」
「迷惑なんかかけていないわよ。此方こそごめんなさいね、お酒が弱いとは知らなくてつい矢継ぎ早に注いじゃったりして」
「いえ、確かに弱いんですけど普通はあれぐらいで酔っ払いはしない筈なんですけど…自分自身驚いているぐらいで」
「体調も万全じゃなかったかもしれないわね。アルコールの作用って体調で左右される処あるから」
「そうなんですかね」

とりあえず昨日の無礼を謝る事が出来てホッとした。

「其れにしても、本当に十喜代さんのお店、復活したのね」
「一応…ですけど…まだまだ祖母の時みたいなコーヒーを出す事が出来なくて」

そう云いながら注文のコーヒーを蘭さんの前に出すと、蘭さんは綺麗な所作でひと口含んだ。

「…ん、確かに十喜代さんのコーヒーとは少し違うけれど、あたしは好きよ、美野里ちゃんのコーヒー」
「あ、ありがとうございます」

にっこり微笑まれて云われてドキッと胸が高鳴った。

(わぁ…蘭さんも笑顔が眩しいっ)

東藤さんといい、蘭さんといい、どうしてこんな田舎に美しい人が多いのだろうとちょっとした疑問を持ってしまった。

(勿論北原さんや南さんもカッコいいけれど)

自分の周りにいるには勿体ない程の人材が集まっているのがなんだかむず痒い感じがした。

「そういえば、昨日は何もなかった?」
「何もなかった…とは」
「先生に連れられて行ったでしょう?変な事、されなかった?」
「! あ、あの…されてません!私、熟睡しちゃったみたいで…先生のお家の布団に図々しく寝てしまって」
「あら、先生の家に泊まったの?」
「はぁ…なんか私、先生に家の鍵を渡さなかったみたいで…仕方がなく自宅に連れて来たって」
「ふぅん…其れは防犯意識が高いのか低いのか判断に迷うパターンね」
「~~~」
「でもまぁ、先生なら安心かな。熟睡している女の子に手を出す様な飢えた獣じゃないし」
「東藤さん自身もそう云っていました…」
「そうかぁ~熟睡していたのか…益々惜しいことしちゃったなぁ」
「え」

何故か少しずつ話の方向がブレて来たような気がした。

「先生、本当お酒強いんだからなぁ。ひとりで美味しい処を持って行っちゃって残念」
「…美味しい処?」
「本当はね、先生のノンアルコール飲料、ノンアルコールじゃなかったの」
「……へ?」
「勿論修吾と憲ちゃんのグラスにも必要以上のアルコールをドバドバ投入してべろんべろんに酔わせてやったんだけどね」
「…」

(何…急に)

「本当なら酔っぱらった三人をお店に放置して、あたしが美野里ちゃんを介抱しようと思っていたのに…本当計算狂っちゃった」
「…あ…あの…蘭、さん?」

何故か今までのように気軽に声を掛ける事が憚れ、口から吐き出される言葉がたどたどしくなった。

「ふふっ、そんなに怯えないで?あたしも飢えた獣じゃないわよ」
「…え」
「あたしの長所は裏表がない事。そして短所は──」
「…」
「欲しいと思ったら絶対に手に入れるって事」
「っ!」

不意に伸びて来た蘭さんの掌が私の頬を一撫でした。

其の余りにも突然の事に盛大に体を硬直させてしまった。

「あらあら、そんなに身構えないでぇ?真昼間からえろい事しないから安心して」
「えろ…?!って…あ…あ、あの…」

(何…なんで?)

「あ、もしかして先生から訊いていないの?」
「な、何、を…」
「あたしが男だって事」
「???!!!!」

(お…お、お、お……)


男ぉぉぉぉぉ───???!!!


「そっかぁ、知らなかったのね。ごめんなさいね、驚かせてしまって」
「な、なん…なん…」
「まぁ、あたしの事は其の内おいおい教えてあげるから」
「っ!」

私の頬を撫でていた蘭さんの掌が首筋を伝い、其の何ともいえない感覚にゾワッと粟立った。

「ふふっ、嬉しいわぁ。久し振りに襲い甲斐のある可愛子ちゃんが来てくれて」
「~~~」
「どうかあたしのものになってね、美野里ちゃん」
「!!!」




一体全体…


(どうなっているのぉぉぉぉ──?!!!!)


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