私と光人がいた養護施設は18歳になったら退所する決まりになっていた。

一足先に退所した光人は施設長からの紹介でとある会社に就職したと訊いた。


しかし其れから三年。


光人は一度も施設には勿論、私に逢いに来てくれる事はなかった。

ちゃんと恋人同士だという確約めいた言葉を交わした事はなかったけれど、私と光人はセックスをする関係になっていた。

私の中ではそういった関係にあるという事は自然と恋人同士だという認識があったのだけれど…


(光人にとっては私との事は此処だけでの関係だったって事なの?!)


連絡が取れないまま月日は過ぎ、18になった私もいよいよ施設を退所しなくてはいけない時期になっていた。

だけど私は施設側から提案されるどの就職先へも行く事が出来ず、自分が何をしたらいいのか、この先、何を目標に生きて行けばいいのか解らずにいて燻ってしまっていた。

そんな私の前に現れたのが光人だった。


『久し振り、朱里』
『みつ、と』


三年振りに見た光人は私の知っている光人ではなかった。

細い線だった体は筋肉質になっていて、背も高くなって全体的に大人の男になっていた。


『ずっと連絡しなくて悪かったな。ちょっと事情があって中途半端に連絡出来なかったんだ』
『なに…何を云ってるの?』
『──朱里、俺と一緒に戦わないか?』
『!』


一瞬光人が何を云っているのか解らなかった。

『戦う』なんて単語、日常生活では使う事さえない言葉だったから。


『あ、いや、戦うって別に戦争に行くとか、自衛隊とか…そういった意味じゃないぜ』
『…』
『ある人を護る仕事を俺と一緒にしないか?』
『…護る?誰を』
『日本を裏で支えている一族の次期総帥』
『?!』


其の時は光人がどうにかなってしまったんじゃないかと思った。

だってあまりにも荒唐無稽な話で、到底まともなものじゃないと思ってしまったから。

だけどよくよく光人の話を訊いて、私は知らない内に渦中の次期総帥という人物に陶酔してしまっていたのだった。






『おまえが新しく入った新人か?』
『…』
『おい!』
『! は、はいっ!ま、松永、朱里と云います』


初めて蒼様に逢った時の衝撃は忘れない。

私よりも四歳下、まだ中学生だという林宮寺蒼様は、何処からどう見ても可愛らしい女子中学生だったのだから。


(な、何…この可愛らしい女の子は…)


一応パンツスタイルではあるけれど、長い髪の毛に小柄な体、其の美少女風の顔は何処からどう見ても女の子其のものだった。


(あれ…?確か蒼様って…男じゃ)


光人から話を訊いた時、蒼という名前で『え、次期総帥になるのって女の子なの?』と訊いた事があった。

だけど其の時光人は『蒼という名前だけど立派な男の子だ』と云っていた。


(だけどだけど…目に前に居るのはどう見ても女の子じゃ…)


深くお辞儀をしたまま支離滅裂な状況に頭を乱していた。


『顏、上げろよ』
『は、はいっ』


(だけど口調は乱暴な男の子って感じ)


見た目と喋りに凄まじいギャップがある。

冷静になろうとすればするほどに混乱が表情に出てしまっているようで


『おまえ、オレの事、可笑しな奴だって思っているだろう』
『は?!い、いぇ…』
『正直に云ってみろよ。あ?なんでこんな格好してるんだよ、オカマか?女装癖のあるヤバい奴か?とか思っているんだろう?』
『…いえ!私はただ蒼様は男と女、本当の性別はどちらなのだろうと考えていました』
『あぁ?』
『蒼様の口から仰る性別が知りたいです』
『…』
『…じゃないと混乱してしまって…蒼様自らの云う事だったら其れを信じますので』
『はっ、なんだそりゃ!はははははははっ』
『──え』


急に破顔して大声で笑い始めた。


(何…何何、この反応は…怒っているの?其れとも)


『はははっ、おまえ、光人からオレは男だって訊いていただろう』
『あ…はい、訊いていました』
『じゅあオレは男じゃないか』
『…でも、実際にお逢いして…其の、あまりにも可愛らしい方だったのでもしかして──と思って…』
『…』
『光人──いえ、紺藤から訊いた情報と相違点があったら、其れは本人に確認しなければダメなんじゃないかって』
『──採用』
『……え』


いきなりテーブルにバンッと何かの紙きれが置かれた。


『サインしろ。おまえを林宮寺蒼付きのSPチームに雇ってやる』
『…』
『まぁ、あの養護施設出身という事で半分は採用条件に引っかかっていたが…もう半分の面接で決定打になった』
『……あの、其れは…何故』
『おまえは他の奴からの情報を鵜呑みにしないからだ』
『!』
『真実をオレに求めた──だから雇う』
『…』
『例え仲間からの言葉があったとしても、情報と実物が違っていたら真意を見極めようとする力がある』
『…』
『おまえはオレの言葉を信じると云った。だから傍に置く事を赦す』
『…』
『さぁ、サインしろ。これからオレを護るためのありとあらゆるスキルや術を身に着け、完璧な護衛になってオレが総帥になるまで其の身を捧げるんだ』
『……は、はぃ』


其れは夢のような出来事だった。

目の前のこの人は私を必要としてくれた。

オレを護れと私を求めた。


(こんな事…初めて)


初めて地位のある人に必要とされた。

其の圧倒的なカリスマ性を放つ目の前の主はあっという間に私にとって何物にも代えがたい存在となってしまったのだった。


朱に光る
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