昔から感情の起伏が少ない、可愛げのない子どもだった。


『ねぇねぇ、ようごしせつっておやにすてられたこどもがいるところなんでしょ?』
『…』
『ってことはぁーしゅりちゃんっておやにすてられたかわいそうなこなんだねー』
『…』


物心ついた時から住んでいた私の家は、何かの施設のような無機質な処だった。

テレビで観るようなお父さんとお母さんがいて、其の子どもだけで住んでいる形態とは違う事が不思議だった。



『朱里ちゃんはね、雪が降っている時にこのホームの玄関に置かれていた神様からの贈り物だったの』
『…』
『此処にいる子はみんな神様からの贈り物なの。特別な意味を持って生まれた尊い子たちなのよ』
『…』


施設の先生はいい人ばかりだったけれど、思いやって語ってくれる不遇な生い立ちがかえって私の孤独感を増幅させた。


そうして私は益々心を閉ざし、不貞腐れ、自分からバリアを張ってしまっていた。



『おまえってなんでいつもそんな顔してんの?』
『…』
『愉しくねぇの?生きてるって事』
『…』


同じ施設に居た三歳上の男の子が何かにつけて私に話し掛けて来た。


『此処に居られるって事はすげーラッキーなんだぜ?親に捨てられても生きて行けるんだからさ』
『…』
『最悪なのは親に捨てられて…誰にも助けてもらえないまま死ぬって事だろ』
『!』
『だから自分はラッキーなんだ、生かされているには意味があるんだって思わなきゃ損だろ』
『……』


其の子が何故私にそんな事を云ったのかは解らない。

だけど先生たちが小難しく云う慰めなんかよりもずっと其れは私の心に響いて…


『──って、おい、おまえ!』
『~~ふっぅ』
『な、泣くなよ!おま…っ』


私は其の時初めて声を上げて泣いた。

初めて素直に感情を解放した瞬間だったのかも知れない。


わんわん泣く私をずっと泣き止ませようと奮闘していた八歳だった其の男の子の名前は──




ピリリリリリリ


「!」

けたたましく鳴った着信音で意識が覚醒した。

(寝てた?!私)

ソファに寝転がっていて、いつの間にか寝ていたのだと気が付くとあり得ない程の恥ずかしさを感じた。

(こんな処、蒼様には絶対見せられない!)

此処にはいない主の蔑んだ視線を想像して少しだけ落ち込んだ。



ピリリリリリリ


「! っ、携帯」

相変わらず鳴り続けていた携帯を慌てて手に取って電話に出た。

「も、もしもし」

『出るの遅いぞ』

「……あぁ」

一瞬蒼様から──と思っていた気持ちはあっという間に萎んだ。

『なんだぁ、其のガッカリ感満載の声色は』

「何でもない──何よ、何か用?」

『つれないな、おまえ今日から休暇なんだろう?こっちに来いよ』

「は?何云ってるの。勤務中でしょう?」

『いやいや、俺もいきなり昨日から休暇になってさぁ~』

「…」


(まさか…こっちにまで手を回して…?)


『おい、もしもし?聞こえているか、俺の話』

「…聞こえている」


電話口から聞こえて来る久しぶりの声にしばし聞き入った。


(なんだか…不思議なの)

先刻程まで見てた夢の登場人物からの電話になんだか不思議なものを感じて、私は電話の主である紺藤 光人(コンドウ ミツト)の誘いに乗ったのだった。


朱に光る
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