『本店には要りませんよね?彼女』

先程の謝罪の態度に伴わない言葉に唖然とした。

しかし

「では彼女は僕がいただきましょう」
「は?!れ、蓮条院様、何を──」
「丁度身の回りの補佐が欲しいと思っていた処です」
「な…なっ、なっ」

(…えーっと)

私の気持ちを其のまま代弁してくれている店長と、にこやかな笑みを浮かべている彼を交互に見つめて、私はただ茫然としているだけだった。

(何?…何が今、起きているの?)

「という訳で、えっと…さいとうさやこさん?」
「! はい」

フルネームで呼ばれやっと意識が浮上した。

「詳しいお話をしたいので僕について来てもらえますか?」
「……はい」

彼の其の口調と表情から何故か反論を赦さないという雰囲気を感じ、私はただ云われるまま返事をした。

「あの、蓮条院様、本日の視察の件は」
「其れはまた後日、追って沙汰します」
「…はっ」

店長は深々と頭を下げ、部屋を出て行く彼と私を其のまま見送ったのだった。

本店を出るまで通った店内ではあちらこちらで店員がお辞儀をしていた。

(何、この人)

この『れんじょういん』という人が何者か解らない私はただ其の異様な光景を流れるように見るしかなかったのだった。


本店の外に出ると、正面玄関に横付けされていた大きな黒塗りの車が目に入った。

其の後部座席のドアを白髪の男性が開けて待っていた。

「予定が変わりました。今から屋敷に戻っていただけますか」
「かしこまりました」

(運転手さん…か)

先に乗り込んだ彼を見送ると、運転手さんは私の方を向いた。

「さぁ、どうぞお乗りください」
「は…はい」

何処の誰だか解らないだろう馬の骨みたいな私にも丁寧に頭を下げてくれる姿に恐縮した。

おずおずと乗り込んだ車内は高級車らしい重厚な雰囲気だった。

私がシートベルトを着け終ると車は静かに発車した。

しかし車が走っていると実感出来る振動がなかったために、本当に走っているのだろうかと何度も車窓を眺めた。

「申し訳なかったね」
「!」

静かな車内にあの不思議なトーンの声が響き、私はやっと隣に座っている彼の方に顔を向けた。

「突然連れ出してしまって不快に思ってはいませんか」
「…いえ…不快ではありませんけど…其の」
「なんですか」
「…展開が早過ぎて…正しい判断が出来ていない感じです」
「…」
「なんか私…大丈夫なんでしょうか?」
「…」
「知らない人の車に乗って…何処に連れて行かれるのか解らないのに…軽過ぎませんか?」
「……っふ」
「え」
「ふ…ふっ…ふ、はははははっ」
「!」

突然笑い出した彼に私は驚いた。

(えぇーなんでいきなりそんな大笑いを)

私は何か笑える事を云ったのだろうかと、ほんの数秒前の自分の言葉を反芻した。

(可笑しいかな?可笑しい事、云った?私)

戸惑いながらも未だに笑い声をあげている彼をジッと見ている。

(…なんだか印象が随分違うなぁ)

最初店長室で逢った時に感じた威圧的な息苦しい感じは今、此処にはない。

「は…はははっ……あぁ、久し振りに笑いました」
「…はぁ」
「面白い人ですね、あなたは」
「そう、ですか?自分では解らないですけど」
「あぁ…とても新鮮だ」
「?」

ちいさく呟いた彼の言葉はよく訊き取れなかった。

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