初出勤だというのに寝坊してしまった。

でも朝ご飯を食べる時間を惜しんだおかげでなんとか始業時間前にお店に着く事が出来た。

遅刻しなくてよかった──なんて思いながら、第一印象が大切!とばかりに思いっきり元気にお店の中に入ったのだけれど……


「え…」
「だからね、此方が採用したのは斉藤清子さんだったの」
「…さいとう…きよこ」
 
其の名前を訊いてハッとした。

斉藤清子さんは私と同じ支店で働いていた二つ上の先輩店員だ。

先輩の名前と私の名前が似ているという事で、書面での用件でよく間違われていた。

呼び方は『さいとうきよこ』と『さいとうさやこ』で苗字が同じというだけで大した間違いはなかったのだけれど、漢字にすると先輩の『斉藤清子』と私の『斎藤清子』は『さい』の字だけが違っていたために混乱を招くと笑われた事が何度かあった。

(まさか…支店長が間違って…)

本店からの人事通達の書類を受け取ったのは閉鎖したお店の支店長だった。

紙面に目を通して確認したのは全て支店長ひとり。

私は支店長から口頭で指示を受けただけで──


(支店長ぉぉぉぉぉぉ──!!!)


支店長は完全に勘違いしていたのだ。

閉鎖の混乱で動揺していたのかどうか解らないけれど、常日頃私に『優秀な斉藤さんとそっくりな名前で苦労しそうだね、斎藤さんは』なんて厭味ったらしく云っていた支店長自身がこんなミスをするなんて!!

(いや、私だっておかしいなとは思ったわよ)

先輩の斉藤さんはとても優秀だった。

接客も販売技術もピカイチで、おまけに私とは比べようにならない程の美人さんだ。

そんな斉藤さんなら本店への異動も納得が行く事だった。


「はぁ…まいったなぁ」

店長室で固まっている私を前に、本店長は盛大にため息をついた。

(ため息をつきたいのはこっちの方よ!)

間違ったのは支店長だし、きちんと確認を取らなかった本店側の責任じゃないだろうか。

(私が悪い訳じゃないでしょう?)

云い知れぬ不安と憤怒がジワジワと私の胸を押し潰そうとしていた。

其の時

トントンと店長室のドアが叩かれ外から声がした。

『店長、蓮条院様がお越しになりました』

「おぉ、もうそんな時間か!直ぐにお通しして」

(れんじょういん…?)

店長は其の名前を訊いた途端慌ただしく部屋を右往左往し出した。

「あの…」

完全にスルーされてしまっている感じになった私はどうしたものかと店長に声を掛けるけれど

「あぁ、悪いが今は君に構っている暇はないんだよ。また後日改めて連絡をするから今日は帰ってもらえるかな」
「え」

この流れは不味いと思った。

(このまま帰ったらきっと電話一本で異動の話はなかった事にされる!)

本能的にそう思った私は店長に食い下がった。

「あの、お時間が空くまで待っていますから話の続きをさせてください」
「いや、話す事はないよ。間違いだったって事で終わった話だ」
「はぁ?!」

忙しさから出た言葉なのか、其の店長の言葉に私はカチンと来た。

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