私は兄に育てられた。

父は私が母のお腹の中にいる時に事故で亡くなっていた。

其れから母は生まれたばかりの私と8歳の兄を女手ひとつで育てて来た。

兄は母と家計を助けるために高校卒業後、大学に進学せずに就職をした。

しかしこれから母を楽にしてあげられると思った矢先、母は病気であっという間に他界してしまった。

まだ小学生だった私は其れから兄によって育てられて来た。

頭の良かった兄は就職先の会計事務所の計らいで会計士としての資格を得るため補佐業務の傍ら勉強する事が出来、其の結果、私が高校に入学した年に国家試験に合格し、晴れて公認会計士になった。


母が亡くなってから11年。

ずっと兄とふたり暮らしだった。

出来の悪い私を優秀な兄はいつも優しく見守って来てくれた。

優しくて頭が良くて顔立ちのいい兄は女の子にモテたのに、私の面倒を見るために彼女は作らないと云っていた。

子どもの頃はそんな兄をひとり占め出来る事が嬉しくて、優越感にも似た感情が私の中にあった。

だけど

歳をひとつ重ねて行く毎に私の兄に対する気持ちは少しずつ変わって行った。


このまま兄とふたりで暮らしていけたら…


このままずっと兄と生きて行く事が出来たら…


其れはどんなに幸せな事だろうと──考えてしまうようになった。


そう


私は兄の事が好きなのだ。


家族としても


兄としても


そして


男としても──



(だけどそんな感情、持っちゃいけないんだ)

兄と妹という関係で恋をしてはいけないのだと、そんなの誰でも知っている事だ。

ダメな事、禁忌、タブー、間違った事

(だから私は一刻も早く兄の元から巣立たなくてはいけないのに…)

そんな私の気持ちも知らないで、兄はいつまでも私を子ども扱いして猫可愛がりする。

(私ばかりが悩んで…ズルい)

いっその事兄に彼女でも出来ないかと矛盾した気持ちを持ったりするけれど、真面目な兄は朝は私を見送ってから会社に行き、そして私よりも早く帰宅し帰って来た私を出迎える毎日だ。

休日は一日中家に居て家事に勤しんで、たまに私を連れて買い物や娯楽施設に連れて行ってくれる。

彼女のかの字も見えない清廉潔白な兄に対して抱く恋心は日に日に膨れて来てどうしようにもない処まで行きそうだ。

(私にお兄ちゃん以上に好きな人が出来ればいいんだけどなぁ)

そんな事はとっくに試している訳なのだけれど、今まで兄以上に気持ちを寄せる男には逢った事がないのが現状だった。


「…はぁ」

兄の事を思うとため息しか出ない。

(本当…どうしてこんな不毛な恋をしてしまうのだろう)


この世の中に神様とやらがいるのなら、どうかこの迷える子羊を救ってくださいな──なんて考えている内に私は今日から働く事になる本店・蓮杖堂(レンジョウドウ)に着いたのだった。

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