───好きになった人は好きになってはいけない人でした



この世の中に神様という存在があるのならきっとこの出逢いはなかったと思う。

そしてこの世の中に神様という存在があるのならきっとこの気持ちは恋にはならなかった。



だからこの世の中に神様なんていない─── 







『──…か』


「……ん」


『さや──…起』


「……ぁ」


「清子、起きろ」

「……っ!」

耳元で響いた低い声に一気に意識が覚醒した。

背中を駆け抜けたゾワッとした感覚が私を勢いよく起こさせた。

「あぁ、やっと起きた。今何時だと思っているんだ」
「な…っ、お、お兄ちゃん?!なんで私の部屋に」
「ちっとも起きて来ないから起こしに来たんだよ。時間、いいのか」
「時間?!……───あっ!」

パニック状態になっている頭の中に【時間】の単語が入り込み、ようやく違う意味で混乱していた気持ちが波が引くようになくなった。

「わぁぁぁー今日、初日なのに!」

ベッドから飛び降り慌ただしく部屋から出て、トイレや洗面所を慌ただしく行き来する。

「ずっとアラーム鳴っていたのになんで起きないんだ」
「もう、起こしてくれるならもっと早くに起こしてよ!」
「そんな事云って…部屋に入るなって散々云っていたのは清子だろう」
「時と場合によるのよ!あぁぁぁー時間がぁー」
「清子、朝ご飯は?」
「そんなの食べている暇ないよ、えっと…封筒…書類の入った封筒は──」
「はい、これ」
「! ありがとう、お兄ちゃん」
「全く…21にもなって中学生の時みたいなやり取りが続くとは思わなかったよ」
「今いいから、そういうの!じゃあ行って来ます」
「清子」
「え」

慌ただしく玄関に向かい、靴を履こうとしている私に兄が声を掛けた。

「…」
「何?…時間、ないんだけど」

私を見つめる兄の真顔に少しずつ胸が高鳴る。

「頑張っておいで、何が起きてもいつもの清子らしく──ね」
「……うん」

柔らかな笑みを浮かべながらそう云った兄の様子がいつもとは少し違った気がした。

(ひょっとしてお兄ちゃんも一緒になって緊張してくれているのかな)

そんな事を思いながらも私は靴を履き、もう一度兄に向き合って「じゃあ行って来ます」と挨拶をして家を飛び出たのだった。



私は斎藤 清子(サイトウ サヤコ)21歳。

短大を卒業後、とある仏具・神具卸会社の支店のひとつに就職したけれど、其の支店が入社半年で業績不振のためいきなり閉鎖してしまった。

途方に暮れていた私に手を差し伸べてくれたのはなんと本店の店長だった。

『優秀な人材をみすみす手放したくない』という理由から取られた救済措置だというけれど──

(優秀な人材…というのは何かの間違いじゃないのかな)

自慢じゃないけれど私は優秀でもないし仕事が出来る方でもない。

入社半年を経てもお茶汲みや簡単な事務業務しかこなしていなかった。

私よりも優秀な人は他にもいた。

なのに──

(そんな私が何故本店に拾ってもらえたのかは謎だけれど)

この再就職難の世の中で拾ってもらえた事はありがたいと思い、すぐにお願いしますと返事をしていた。

(其の記念すべき本店初出勤の日によりにもよって寝坊とか!)


『全く…21にもなって中学生の時みたいなやり取りが続くとは思わなかったよ』


「…」

兄から云われた言葉に少し落ち込む。

(本当…私って子どもの時から変わっていないなぁ)

私は就職を機にひとり暮らしをすると決めていた。

だけど私の事を心配する兄・眞佐哉(マサヤ)の反対を盛大に受け、未だにひとり暮らしは果たせていない。

(もう…人の気も知らないで)

いつからか兄の事を思うといつもため息しか出なくなっていた私だった。

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