『俺…陽生の事で気になっている事があって』
『気になっている事?』

紅実が無事に記憶を取り戻した翌日、私の勤め先の病院に現れた十六澤くんから話を訊いて、わたしが直接小路くんと対峙したいと申し出ていた。

十六澤くんは小路くんに対し、今は怒りの感情しか持てないから時間が欲しいと思っていたらしく、わたしの申し出はありがたいと云ってくれた。

ただし、小路くんに逢ったら訊いておいて欲しい事があると付け加えられた。

『陽生ってなんで解除法を教えてくれたんだろう』
『え』
『だって普通は教えないだろう。本気で欲しい女だったら』
『…まぁ、そうね』
『其れにあいつ、云っていたんだよな』
『何を』
『見てみたいんだって。俺たちが本当はどういう気持ちで結婚したのかを』
『…』
『俺たちの間に愛なんて存在していないって事を見てみたいから…って、あれ、どういう意味だったんだろう』
『小路くんがそう云ったの?』
『あぁ、なんか其れって訊き様によっては…証明してくれって云っているみたいに聞こえた』
『…』
『俺と紅実には愛があるから其処に自分が入る余地はないんだって証明してみせろって云っている様に思えた』
『…』
『だからさ、其の辺の事…ちょっと訊いてもらえないかな。其れ如何によっては俺、陽生との付き合いもう一度見直したいと思うからさ』
『ん…解った、訊いておくね』


(──って約束したんだけど~~)

小路くんの余りにも衝撃的な告白に頭が真っ白になってつい訊きそびれてしまった。

はぁぁと深くため息をつくけれど、不意に過った事があった。

(…ん?待って…ひょっとして…繋がっているんじゃない?)

十六澤くんから訊いてくれと云われた疑問は、其のまま小路くんの衝撃的な告白で答えが出せるんじゃないかと思った。

愛する事をしない人、愛を信じない人──本当の小路くんはそういう人だった。

だけど紅実に術を掛け、そして其れを解いてみろと十六澤くんに云った小路くんは…知りたかったんじゃないのかな。

(紅実と十六澤くんだから…?)

其れは小路くんにとって他の人とは明らかに違う立ち位置にいるふたりだから其のふたりから解を与えてもらいたいって気持ちがあったのかも知れない。

「…」


(──なんてね)


「そんな訳ないか」

あそこまで愛を拒絶している彼がそんな誰にでも考えつそうな理由で事を起こすとは到底思えない。

きっともっと深い何かが…

天才が考えそうな深い理由が…

「…」

(って天才じゃないわたしが解る訳ないんだけれど!)

「…まぁいいや」

とりあえず十六澤くんにはわたしの考えた答えを云っておこう。

きっと小路くんには本当の意味での友だちっていうのが紅実や十六澤くん以外にいないと思うから。

(いつか…わたしも其の中のひとりに加えてもらえるといいんだけれど)

勿論、友だち止まりじゃ厭だけれど。


「…はぁ」

下ばかり見ていた視線を上に向けて見れば眩しい位の青空が広がっていた。

其処に薄っすらかかっている白い一筋の飛行機雲。

(…いつか日本に帰って来た時は覚悟しなさい、小路くん)

伊達に16年も片想いしているんじゃないって処をみせつけてやるんだから!

そんな事を思いながら、私も駅に向かって歩き出したのだった。







「あぁ、解った。ありがとう」

南との通話を終えたと同時に風呂から上がって来た紅実と目が合った。

「電話だったの?」
「うん、仕事の電話」
「そう」
「紅実、おいで」
「何?」
「頭、ガシガシやってやる」
「えぇ、いいよ。直ぐにドライヤーするし」
「其の前にタオルドライだろう」

そう云いながら座っていたソファの隣をトントンして紅実を座らせる。

「タオルドライはいいから朔もお風呂入って来てよ」
「ん…これ終わったらな」
「もう…私は猫かなんかなの?」
「阿呆、猫にはこういう事しないんだよ」
「きゃっ」

油断していた紅実の胸をひと掴みすれば「えっち!」なんて暴れ出す。

「ははっ、なんか餅が食いたくなった」
「はぁ?何よいきなり」
「紅実餅、頂くとしようかな」
「ちょっと、お風呂、入って来てからにして!」
「…へぇ、入って来たら食ってもいいんだ」
「っ!」

瞬く間にカァと赤くなった紅実が本当に可愛くて、とりあえず頬の方の餅を食んだ俺だった。

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