其の日、宿泊していたホテルのチェックアウトを済ませた僕の元にかかって来た電話は、何処かで待ち望んでいたものだったのかも知れない。 


「やぁ、久しぶりだね」
「えぇ、お久し振り」

飛行機の搭乗時間まで間があったのが幸いした。

「わざわざ此処まで来るとは思わなかったから驚いたよ」
「ふふっ、わたしが小路くんに逢いたかっただけよ」
「そうなんだ」

小中学校が同じだった南有紗から突然電話が来た事に驚いた。

訊けば電話番号は朔から訊いたのだと云った。

其れを訊いた瞬間、彼女は僕側の人間ではないと悟った。

「これからアメリカに帰るの?」
「あぁ。日本での用事を粗方済ませたからね」
「全部──ではないのね」
「…」
「今日、わたしが小路くんに逢いに来た理由、解る?」
「まぁ、大体は」
「解るわよね、天才の小路くんだもの」
「あれ?なんだか僕、馬鹿にされているのかな」
「そう聞こえたのならそうなのかしら?」
「…」

いつも紅実の傍には彼女がいた。

紅実は『友だちじゃないわよ』と云っていたけれど、中学の時のふたりは僕の目から見ても友だちというカテゴリーに入っている様に思えた。

(というか南さんはこんな話し方をするのか)

今まで全く関心がなかった事だっただけに、今何故か僕にとっては重要な展開をもたらす人物になりつつあるのかと構えた。

「まどろっこしいのは苦手なので率直に伝えます。『陽生、ままごとは終わりだ』」
「…」
「十六澤くんからの伝言よ」
「なんで南さんがそんな事を請け負っているの」
「わたしもこの件には一枚噛んでいるの。勿論紅実の味方として」
「…」
「十六澤くんが直接小路くんと話さないのは、今の自分じゃどんな暴言を吐くか、どんな行動に出るか想像出来ないから接触したくないという気遣い」
「つまり、朔は相当怒っているという訳か」
「当たり前でしょう?世の中にはやっていい事といけない事が明確に分かれているのよ」
「…」
「今回の件は完全にアウトだわ」
「そうか、アウトか」
「小路くん、どうしてなの?どうしてあんな事をしたの」
「…」
「紅実の事が好きだったらどうしてサッサとものにしなかったの?!小路くんが真摯に紅実に向き合っていればきっと十六澤くんが紅実の前に現れたってふたりの関係は揺るぎのないものになっていたのに」
「紅実の事が…好き?」
「そうよ。好きだから十六澤くんの事が赦せないんでしょう?だから紅実を使って十六澤くんを精神的に追い詰めたんじゃないの?」
「…好きなのかな、僕」
「え」
「紅実の事を僕は好きなのかな」
「…何を云っているの?今回の事は十六澤くんから紅実を奪う目的でした事なんでしょう?」
「確かに朔から紅実を取り戻そうとした。だけど其れは紅実が僕の伴侶として選んだ女性だったからに過ぎない」
「…? どういう事」
「ちいさな時から僕の傍にいた紅実なら傍にいても煩くないと思った」
「…」
「僕が思い描いている人生に於いて、いつかは必要となる結婚という契約事に最適な女性はよく知った女性が好ましいと考えていた。結婚のために相手を探すなんて時間も労力も惜しいからね」
「…」
「だからちいさな時から傍にいた紅実を選び、来る其の時まで構って来たんだよ──だけど朔の出現によって其の予定は大きく狂わされた」
「…」
「だから確かめたかったんだよ。あのふたりがどうして僕の人生を台無しにするような行動を取ったのか」
「…」
「好きとか、愛とか、そういう目には見えない不確かな脳の錯覚によって行われた事なら、やり直せると思ったんだよね」
「…」
「少し時間を巻き戻してやって、僕が紅実を妻にする様に仕向ければ紅実は従順に従うと思ったんだ」
「…」
「ただ其れだけの事だよ」
「……小路くん…あなたは…」

目の前の彼女の表情が酷く歪んだ。

(あぁ、そういう顔、よく知っているよ)

昔も今も、常に僕の周りには物欲しげな女性たちがまとわりついた。

其の度に僕はそういう感情はとても愚かで自己満足の産物で決して人生を豊かにするものじゃないと説いて来た。


恋愛って───なんだろう。


好きか嫌いの二者択一で分けなければいけない恋愛って人に必要なのか?

少なくても僕には必要ない。

そんな訳の解らないものに頭を悩ませるくらいなら難解な医学用語の暗記で悩ませたい。

そんな僕と対峙して来た女性は大抵今の彼女のような歪んだ顔を僕に見せ去って行くのだった。

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