買物途中で会った朔と自宅に帰って来た。

(悪い事…しちゃったかな)

買って来た物をキッチンカウンターに置きながら考えるのは先程の事だった。

自然と繋がれた手を私は咄嗟に払ってしまった。

(だって…急にだったから)

多分、大人の私と朔との間ではごく自然に頻繁にされて来た行動だったのだろう。

だけど今の私には手を繋ぐという行為は恥ずかしいものだった。

(はぁ…心臓が…まだドキドキしている)

「紅実」
「っ!」

不意に掛けられた言葉により一層心臓がドキンと跳ねた。

「あ、ごめん、いきなり声を掛けて驚かせちゃったか」
「う…ううん、大丈夫」
「晩飯、今から作るのか?俺、手伝うよ」
「え、いいよ、仕事で疲れているんでしょう?」
「疲れていない。だから手伝わせて」
「…」

全然厭そうな顔じゃない、心からの言葉だという事が解ってこれ以上遠慮する事が出来なかった。

「今日は何作るの?」

手を洗いながら訊いて来た朔の言葉に私はノートを見せながら答えた。

「これ…生姜焼き作ろうと思って」
「おぉ、俺の好物!やった」
「っ」

一瞬中学生の時の表情みたいな子どもっぽい反応を見せた朔にドキッとした。

(やっぱり…変わっていないの…かも)

時々垣間見れる私の知っている姿を見つけると、あり得ない程のドキドキを感じた。

朔に見せたノートはキッチンの引き出しに入っていた。

ノートには朔の亡くなった母親が書き記したという色んなレシピが書かれていた。

年期の入った其のノートは如何にも使い込まれている感が見て取れて、多分大人の私が朔の為に読み込んで作っていたのだろうと安易に察しがついた。

(だから私も…)

「紅実、この生姜擂っていいの?」
「あ…うん、お願い」
「任せろ」
「…」

(なんだか…変なの)

覚えているはずもないのに、何故かこうして一緒に料理を作っている事が懐かしい──と思えてしまう。

(大人の私たちは…一緒にどんな事をして来たのかな)

隣り合わせでふたり料理を作っていると、そんな事ばかり考えてしまう私だった。




「はぁ~美味しかった」

ふたりで作った夕食を終え、朔が感嘆の声を漏らした。

「本当?美味しかった?」
「うん、相変わらず紅実の料理は美味しいよ」
「…そっか」

冷蔵庫の中に入っていた大量のタッパーの中身を食べ尽くしてしまい、いよいよ私が何か作らなければいけないという危機感に駆られ作った料理だったけれど、褒められてよかったなと安堵した。

(まぁ…半分以上朔に手伝ってもらったんだけど)

料理は得意じゃなかった。

たまに母のお手伝いでやったりしていたけれど、初めからひとりで作った事はなかったから、とても不安だった。

「紅実」
「え」
「余り無理しなくていいからな」
「…」
「食事の支度にしても掃除や洗濯…やってくれるのは嬉しいけど、無理しないで」
「…」
「ね、紅実」
「…別に…無理なんかしていない」
「え」

いつも

いつも

いつも『無理しないで』と朔は云う。

其れは私に対する優しさだと一緒に過ごす内に解って来た事だけれど…

「無理なんてしていない、っていうか、あんたは其れでいいの?!」
「──え」

此処数日感じていたもどかしい気持ちが何故このタイミングで堰を切ったのか私には解らなかった。


──けれどもう止める事が出来ない位の決壊を起こしてしまったのだった


ままごとマリッジ
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